国勢調査の「不完全さ」は他の統計に影響する

この「不詳補完値」の公表は国勢調査の2020年調査から徐々に始まっている。実際、人口統計で示される「生涯未婚率」は、2015年の調査にも遡って計算されたが、不詳を除く従来の計算の場合、「男23.4%、女14.1%」だったものが「男24.8%、女14.9%」になった。それほど、国勢調査の「不完全さ」が、他の統計に影響を及ぼし始めているのだ。

政府ではここ10年ほど、「EBPM(証拠に基づく政策決定)」の重要性が議論されている。2017年には政府の「統計改革推進会議」が設置され、政府の方針を示す「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」でも毎年のようにEBPMの重要性が強調されている。こうした議論の背景には、繰り返される統計不正がある。

「統計軽視」とも言える霞が関の風土

2019年には厚生労働省の毎月勤労統計調査での不正が発覚して大問題になった。本来は従業員500人以上の事業所すべてを対象に調査するルールだったものを、東京都では約3分の1の企業を抽出する手法で調査し、統計的な補正作業なども行っていなかったというものだった。2004年から長期にわたって不正が行われていたが、会議などでも「全数調査を行っている」というウソの報告をするなど隠蔽が続けられた。

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実は、この調査結果をもとに計算されて、雇用保険や労災保険の金額が決まっていた。毎月勤労統計の調査方法の不正によって数字が変わることで、のべ2000万人の過少給付も発覚。大問題になったのだ。

2022年にも国土交通省の統計不正が発覚した。「建設工事受注動態統計調査」で杜撰な調査を行い、二重計上になっていたことなどが明らかになった。この統計は国の「基幹統計」の1つで、この不正によってGDP(国内総生産)の数値などにも影響を与えた。

こうした不正が相次ぐのは、「統計軽視」とも言える霞が関の風土がある。エビデンス(証拠)としての統計数値に基づいて必要な政策を考えるのではなく、自分たちがやりたい政策、あるいは政治家から求められる政策を実施するのに都合の良い数字だけをつまみ食いする。つまり統計が何よりも大事、という風土が霞が関にはないのだ。