発達障害を持つ人への適切な支援と社会の意識変革を

2006年にNPO法人を設立してから、さまざまな困難を乗り越えてきた檜尾さん。発達障害を持つ人の支援の現状をどう見ているだろうか。

「日本の社会福祉制度はまだまだ未熟です。私は約20年前、息子を児童精神科医に診てもらうのに3年待ちましたが、現在も半年ほど待たされることはざらです。国の支援制度も幼児期と学齢期では管轄省庁が異なっていて連携が取れていないケースが多い。当事者は不利益を被っているし、親御さんも疲弊しています。ピュアが幼児期から成人期まで一貫した支援にこだわっているのは、そうした課題があるからなんです。国や行政がやってくれるのを待っていられない。民間が率先してモデルをつくっていかなければと考えています」

発達障害の現れ方は人それぞれで多様なため、一人ひとりに適切な支援が行われるよう、支援者の育成も大きな課題だという。

「ピュアは東大阪市の委託で相談支援事業も行っています。福祉事業所や学校、企業のコンサルテーションに入らせてもらい、研修等で適切な支援技術を伝えています。各所の力量が上がれば、それだけ多くの人が救われる。人材育成は急務であり、重要な課題です」

さらに大事なことは、地域社会へ理解を広げることだと檜尾さんは指摘する。

「隣近所に住む人、いつも利用するコンビニや飲食店の店員さんなど、地域社会の人が発達障害を持つ人との関わり方を知っているかといえば、まだ少数ですよね。彼らの特性や関わり方について社会の理解、配慮が広まっていかないと、本当の意味での自立につながらない。社会の意識変革も必要なことだと考えています」

日本の障害者の総数は2022年12月現在で人口の1割に当たる約1164万6000人(厚労省推計)。そのうち、発達障害を持つ人は年々増加している。

「今後、日本の人口が減っても障害者がいなくなることはないでしょう。障害を持つ人が社会の人びとと信頼関係を築いて、街が活性化する。それが実現してこそ誰もが生きやすい未来、社会になると信じています。私が死んだ後も息子や息子と同じ境遇の人たちに、変わらない日常があること。そうした環境をつくっていきたいんです」

檜尾さんは、そんな社会環境を実現すべく、今日も奔走している――。

(構成・文=田北みずほ)
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