「犬猫兼業」の繁殖業者が増えている

猫ブームの恩恵を強く感じている。だからこそ、繁殖に使っている猫たちに無理をさせたくない。最初に競り市で買ってきた雌猫は、そろそろ繁殖に使うのをやめようと思っている。繁殖から引退した猫を引き取ってくれる動物愛護団体に、相談を始めているという。

新規参入者が増える一方で、目立ってきたのが、猫の繁殖にも手を出す犬の繁殖業者だ。大手ペットショップチェーン経営者は、「『犬だけじゃなくて猫も』という安易な兼業繁殖業者が増えてきている」と懸念する。

ある大手ペットショップチェーンの推計では、2015年度時点で、犬の繁殖業者が猫の繁殖も始める事例は、繁殖業者全体の3割を超えたという。「犬猫兼業」繁殖業者がどんどん登場しているのだ。しかも同時に、「猫は蛍光灯をあて続ければ年に3回繁殖でき、運動する必要もないから狭いスペースで飼育でき、とにかく効率がいい」(別の大手ペットショップチェーン経営者)という考え方が広がっている。前出の筒井名誉教授はこう憂える。

「犬と猫は全く別の動物です。たとえば、犬では感染症を防ぐのに有効なワクチネーションプログラムが確立しているが、猫ではワクチンで十分に抑えきれずに広がってしまう疾患がある。求められる飼育環境も、犬と猫とでは全く異なる。猫を飼育する際の様々なリスクを、犬のブリーダーがどれだけ理解できているのか心配です」

毎年5千~7千匹の猫が販売までの過程で死んでいる

猫の繁殖に参入したものの数年で撤退に追い込まれる業者は少なくない。関東地方南部で20年あまり犬の繁殖業を続けてきた女性は数年前、ブームに乗って猫の繁殖も始めてみた。

太田匡彦『猫を救うのは誰か』(朝日文庫)

だが、しばらくすると感染症が蔓延まんえんした。

「犬と同じようにいくのかと思ったら全然違った。感染症が一気に広まって、怖くなってやめました」

女性はそう振り返る。業者が廃業しても多くの場合、猫たちは繁殖から解放されない。廃業は第1種動物取扱業の登録が抹消されることを意味する。つまり、行政の目が届かなくなる。結果、繁殖に使われていた「台雌だいめす」と「種雄たねおす」の多くは、同業者に横流しされていく。こうした猫たちは、行政に把握されないまま闇へと消える。

さらに、先に示した朝日新聞による「犬猫等販売業者定期報告届出書」の調査では、毎年少なくとも5千~7千匹の猫が、繁殖から流通・小売りまでの過程で死んでいることが明らかになっている(原則として死産は含まれない)。ブームは、これだけの数の犠牲の上になりたっているのだ。

ブームが去っても悲劇は続く

このまま猫ブームが続けば、猫たちの過酷な状況はますます広まっていく。もちろんブームにはいつか終わりがくる。ただペットのブームは、終わった後にも悲劇が起こる。大手ペットショップチェーンの経営者はこう話す。

「私たち自身、いまのようなブームがいつまでも続くとは思っていません。毎年、『今年が山場だろう』というつもりでいます。一方でこの数年、高く売れるからと、各ブリーダーとも子猫の繁殖数を大幅に増やしている。そのため、かなりの数の繁殖用の猫を抱えてしまっています。ブームに陰りが見えて子猫の販売価格が下がり始めたら、増やしすぎた繁殖用の猫たちがどうなってしまうのか、行く末が懸念されます」

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