窓口が大混乱に陥るのは目に見えている

体調の悪い時や、時間がなくて早くいつもの薬が欲しいという時に、受付から診察室に入るまで、いくらでも待てるという人はまずいないだろう。なるべく事務的な手続きは早く終えてもらって、さっさと診察を受けて帰りたいというのが、ほとんどの人の要望ではないだろうか。

だが残念ながら、今年の12月以降はそうはいかない。窓口業務が大混乱に陥るからだ。医療機関によく行く人ならわかると思うが、現状でさえ患者さんが集中する時間帯は、受付してから診察室に呼び入れられるまで1時間かかることも珍しくない。

それが患者さんによって資格確認パターンがこれだけ多様で異なってしまうのだから、今より時間が短くなるはずは絶対にないのである。間違いも起こりやすくなるだろうし、機械の不具合などで確認のやり直しが必要となれば、そろそろ診察室に呼ばれるかなと思っていたところで、「もう一度確認させてください」あるいは「今までの健康保険証を持ってきてください」などということも起こるだろう。

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救急車を呼んでも6分以上余計にかかってしまう

じっさいマイナ保険証やオンライン資格確認にかかるトラブルに遭遇したことのある医療機関は全国で約6割あり(全国保険医団体連合会調べ)、こうしたトラブルは8割の医療機関が「その日に持ち合わせていた健康保険証で資格確認した」と答えている。

皮肉なことに、医療現場では「紙の健康保険証」こそが“医療DX”のトラブルを回避するセーフティーネットとなっているのである。健康保険証を「廃止」さえしなければ、大混乱もトラブルも起こらないのに、いったい政府はなにをしたいのだろうか。

窓口では、こうした対応や待ち時間の増加にイライラし、受付の事務員にクレームや暴言を浴びせる人が出てくることも容易に想像できる。そうなればそれに対応する事務員も必要となり、業務はさらに滞って待ち時間は飛躍的に増加するのだ。これが「健康保険証廃止」によって最も想定しやすい「不便益」といえよう。

それでも「日本がデジタル化するなら、医療機関で待ち時間が増えるくらい我慢できる」という人もいるかもしれない。しかし、その待ち時間が医療機関内ではなく、救急車内であっても我慢できるだろうか。