「俺、週5で行きますよ」

JR盛岡駅の駅ビル1Fにあるさわや書店フェザン店。(2012年5月撮影)。

取材から約半月後の12月2日、7人の「TOMODACHI~」参加者が、盛岡の特定非営利活動法人「未来図書館」に集まった人たちの前で、合州国での体験を話した。題は「カタプラ2012 高校生によるプレゼンワールドカフェ」。「カタプラ」とは「Catalyst(触媒)+」の意だ。

きっかけは熊谷さんだった。合州国から帰ってきた熊谷さんは、大人と高校生が対話するプログラムの体験をお父さんと話した。盛岡でも、こういうことはできないか——と。県庁職員のお父さんは、未来図書館の理事でもある。未来図書館は、ひとことで言えば就労・起業支援の組織だ。設立趣旨にはこう書かれている。

《学校を卒業するときになって初めて仕事探しをする若者、会社をリストラされてもなす術無く無力感に打ちのめされる中高年が増えています。(中略)私たちはこういった時代の要請に応える事業を行い、自分の仕事は自分で見つける、起業に挑戦する事が当たり前になる、そういった社会を実現し次の世代に継承していきたいと考えます》

同図書館では、2004(平成16)年の設立以来、大学生・高校生と社会人の交流の場を企図していたが、なかなか人が集まらなかった。熊谷さんとお父さんの会話が「触媒」になった。まず、同図書館の理事で地元テレビ局の元アナウンサーでもある落合昭彦と高校生たちが語りあう機会が、8月に設けられた。それが12月のプレゼンの機会につながった。「未来図書館」のウエブサイトには当日の模様が紹介されている。

■未来図書館スタッフブログ
http://www.miraitoshokan.com/staff_blog/?page=2

《カタプラは今回発表してくれたメンバーを中心に2013年は中・高・大学生のメンバーを新たに募り、定期的に集まる機会を用意したり、キャンプをしたいと考えております。一人ひとりが持つ"力"の多寡にかかわらず、日常の「かかわり」の中で、自分について学び、自分が誰かのためにできることを、自分ができる範囲で、特別なことではなく「当たり前のこと」として動けるヤングカタリストの輪をどんどん広げるサポートを続けていきたいと考えています。一緒に取組んでくれる仲間大募集です》

熊谷さんが言う。

「本格的なボランティア活動とか、そういうことをやるのは来年かららしくて、そのときは俺、もういないと思うんですけど、まずは今回、大人と高校生が集まって話す機会をやることができました。これ、けっこういいッス」

盛岡編の冒頭で、この地では郷土学習が丁寧に行われていると書いた。それはハコモノがあるだけでは不可能だったろう。大人と子どもが語りあう場、その積み重ねがなければ「郷土意識」は生まれない。意識して伝え続けていかなければ、土地の歴史はあっさりと途絶える。

語りあう場では「やる意味ってあるの?」と、入力コストと出力メリットが直結していないと行動できない学生が、お利口な見解を口にするかもしれない。次の世代に何かを渡そうとするとき、若い世代がその意味を理解するまでには時間がかかるのが常だ。盛岡の幸運は「TOMODACHI~」に参加した高校生のほうが、大人と語りあうことの意義を知り、それを求めているという点にある。

最後にもう一度、「盛岡らしさ」を感じることばに出合った。取材を終えた余談の中で、熊谷さんが言ったことばだ。

「俺、週5で行きますよ、あそこ」

本屋の話だ。その街で暮らしている高校生は、自分たちの街にあるものが全国的に高く評価されていることを知る機会が少ない。取材を終え、盛岡を地元とする「さわや書店」のことを日本の出版業界で知らない者はいない——という話をしたときも、高校生たちは揃って驚いていた。あの本屋さんは「この本を読んでほしいんだ」とわかる並べ方がすごいでしょう?

熊谷「うん、確かに。あと、駅のさわやは店員さんに美人がメチャクチャ多いです(笑)」

菊池「それ、けっこう有名です(笑)」

盛岡二高の照井さんは「主に行くのは家と学校からも近い東山堂です」と教えてくれた。東山堂は盛岡市内には5店を持つ地元書店だ。熊谷さんが行きつけのさわや書店も、大通の本店、フェザン店(これが「駅のさわや」)をはじめ盛岡市内には計5店。盛岡にはジュンク堂書店も進出しているのだが、高校生たちの日常の中で、 2つの地元書店チェーンが役割を果たしている。東京の出版社社員が100回「すごい」と繰り返すよりも、地元の高校生が「週5で寄ります」と笑顔で言うことのほうが、街の本屋にとっても、そしてその街で暮らす高校生にとっても幸せなことだろう。盛岡とはそういう街である。

次回は地元の本屋が次々と消えていった街で、4人の高校生に会う。

(明日に続く)

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