総合感冒薬は治癒を早めない

一方、風邪をひいてしまったらどうするのがベストでしょうか。風邪に治療薬はなく、症状を和らげる対症療法しかありません。風邪の原因となりうるウイルスは200種類以上もあるといわれているため各種に対応するのは困難ですし、自然に治るので対応する必要もありません。

風邪の対症療法にもっともよく使われるのは、風邪薬(総合感冒薬)でしょう。よく「早めの(風邪薬名)」なんて宣伝されていますが、つらい症状をやわらげる効果はあるものの、風邪を予防したり早く治したりする効果はありません。風邪が自然治癒するまでの間の苦痛を減らすための薬です。ですから、症状が軽ければ薬を飲まなくてもかまいません。薬には一定の割合で副作用が生じますので、そのリスクに見合っただけの利益があるときに使うべきなのです。

市販薬でも処方薬でも総合感冒薬には、解熱鎮痛剤や抗ヒスタミン剤などの複数の成分が配合されています。一剤でさまざまな症状への効果が期待できるのは利点ですが、症状によっては必要のない成分まで同時に摂取することになるのが欠点です。つらい症状に効かせる最小限の薬で済ませるのが臨床医としてはスマートだと考えます。風邪に対して3種類も4種類も薬を処方するのは、あまり好ましくありません。

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葛根湯とビタミンCの効果とは

日本では、風邪に対して葛根湯をはじめとした漢方薬もよく使われます。率直に言えばエビデンスは限られていますが、経験的に効果があるとされて処方されているのです。

風邪のひきはじめに葛根湯を飲むと予防効果があるという主張もあり、ランダム化比較試験が行われました(※3)。風邪の症状発現から48時間以内に医療機関を受診した18~65歳の成人をランダムに、【葛根湯群】と【総合感冒薬(パブロンゴールドA)群】に分け、風邪症状の悪化の程度を比較したところ、葛根湯群において168名中38名(22.6%)、総合感冒薬群において172名中43名(25.0%)で風邪症状の悪化がありました。葛根湯群においてやや悪化した人数が少ないものの、有意差はありませんでした。

ただし、風邪の予防に葛根湯が効かないと決まったわけではありません。葛根湯に合った病態、東洋医学でいう体質「しょう」に合っていない患者さんも研究対象に含んでしまったがゆえに差が出なかったかもしれませんし、風邪の症状発現から48時間以内と時間が経ちすぎだったためかもしれません。

ビタミンCも風邪の治療や予防に効果があると言われています。多くの研究が行われていますが一貫した結果は得られていません。マラソンランナーやスキーヤーといった短期間に激しい運動をした人に限定すれば予防効果はありそうです(※4)。食事から十分なビタミンCを摂取していれば追加のビタミンCの効果はなくても、摂取不足や消耗でビタミンCが不足している集団に対しては一定の効果があるのかもしません。

※3 Non-superiority of Kakkonto, a Japanese herbal medicine, to a representative multiple cold medicine with respect to anti-aggravation effects on the common cold: a randomized controlled trial
※4 Vitamin C for preventing and treating the common cold