どんなに円を積んでも何も買えなくなる

ロシアは経済制裁によって、2022年3月にSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除され、ドルで決済ができなくなりました。しかし、ロシアは原油を持っているので、「(ロシア通貨の)ルーブル決済でなければ油を売らない」と言って、ルーブルの価値を維持しています。しかし、日本には、ロシアの原油に該当するものはありません。ドルで決済ができなくなったら、円は終わりです。

そうなると、日本は新しい中央銀行をつくらざるをえないでしょう。そのときには、いまの円は価値がなくなり紙くずになります。日本では1946年に戦後のハイパーインフレを鎮静化するため、預金封鎖と新券発行をしています。今後やって来るハイパーインフレにおいても、対処法は同じです。日銀はそのまま残すにしても、円を新しい通貨に替えなければならない状況になるでしょう。いまの円では何も買えなくなります。

「戦争がなければハイパーインフレなど起こるはずがない」と言う人もたくさんいます。しかし、戦後に起こるハイパーインフレは、混乱による供給不足と消費需要の回復によるインフレです。そのような従来のインフレと、今後日本で起こりうるハイパーインフレは発生原因が異なります。通常のインフレ、デフレはモノやサービスの需給で決まります。モノが少なければ、どんどん価格が上がってインフレになりますし、モノがあふれれば価格が下がってデフレになります。

一方で、今後日本で起こりうるハイパーインフレは、中央銀行の信用が失墜しっついしたとき起こります。モノやサービスの需給は関係ありません。中央銀行の信用が失墜すると、当然、発行する通貨も信用がなくなり、価値がなくなります。市場にモノがあふれていても、紙くずになった通貨では、誰もモノを売ってくれません。それがハイパーインフレを起こします。「インフレの延長線上にハイパーインフレがある」という単純な理屈ではないのです。

資産が国に奪われる地獄が迫っている

ハイパーインフレが起きると、債権者から債務者へ富が移行します。債権者とは預金したり、お金を貸している人、債務者はお金を借りている人です。国家でいうと、債権者は国民全員で、債務者は国(政府)です。ハイパーインフレになると、国民の富が実質的に国(政府)に移っていくのです。なぜなら、ハイパーインフレはお金の価値が著しく下がるため、借金をしていた人が返済しやすくなるからです。

ハイパーインフレでは、債権者である国民から債務者である国(政府)へ実質的にお金が移動すると考えると、ハイパーインフレは大増税と同じです。つまり、究極の財政再建策です。ハイパーインフレが来れば、財政は再建できますから、国(政府)の財政は破綻しないで済みます。しかし、国民は資産が実質的に減って地獄です。

2012年ごろ、日本はすでに財政破綻しているのではないかと思われるほど、借金(政府債務)の額が大きくなっていました。国にお金がなければ税金で集めるか、新たに紙幣を刷って補うしか方法はありません。13年に日銀の総裁になった黒田くろだ東彦はるひこ氏は、異次元緩和という方法で財政破綻を回避しました。日銀が国債を買って紙幣を発行し財源を増やす方法です。これは「財政ファイナンス」と呼ばれる禁じ手で、実施してしまうと世の中に出回ったお金を回収するのが困難になります。世の中にお金があふれているなかで金利を上げても、株や債券を売ったお金は底値探しをするだけで、再び市場に戻ってきてしまいます。そのためいつまでも資産価格が下がらず、経済の狂乱も収まらないのです。いまの日銀はとんでもないことをしているのですから、ハイパーインフレは高い確率でやって来るはずです。