総合電機メーカーからIT企業へ業態転換に成功

産業界のDXによって、製品のライフサイクル(素材の調達や生産、製品の製造、販売、使用、廃棄やリサイクルまでの流れ)全体で排出する二酸化炭素の量もシミュレーションしやすくなった。スマホはDXのインターフェイスとしての役割を担った。

ソニーはCMOSイメージセンサーの研究開発、生産体制を拡充しシェアを高めた。2017年ごろ、世界のスマホ需要は飽和し始めたと考えられる。その後、コロナ禍の発生によってスマホ需要は反発した。それはソニーの収益に追い風となり、株価は上昇した。

日立は、DXの加速に備えて業態を転換した。2022年11月末に米オープンAIが“チャットGPT”を公開すると、日立の対企業向け(B2B)のITプラットフォーム“ルマーダ”のサービスに対する需要は急増し、業績期待は高まった。総合電機メーカーからの業態転換で日立はAI革命の波にうまく乗ったといえるだろう。

7873億円という国内最大の赤字を計上したが…

リーマンショックが発生した2008年9月15日以降、日立は業態転換を急速に進めた。2009年3月期、日立の連結最終損益は7873億円の赤字に陥った。当時、国内の製造業で最大の損失額だった。

2009年7月、日立の川村隆社長(当時)は『社会イノベーション事業の強化について』を発表した。その中で日立は、総合電機メーカーとしての成長戦略に言及しなかった。明示したのは、データセンターなどの情報分野で足場を固める方針だった。

具体的な内容は、まずデジタル技術を駆使し、社会インフラ、脱炭素などの分野に経営資源(ヒト、モノ、カネ)を再配分する。国内市場よりも、海外市場で収益を追求することも成長戦略に定めた。家電、鉄道、インフラ、発電などを事業ポートフォリオにおさめた業態から、産業分野でのIT先端企業へ転換は進んだ。

経営トップの指揮のもと、日立は主要な子会社を売却した。“御三家”と呼ばれた上場子会社(日立化成工業、日立金属、日立電線)も売却し、2022年度に上場子会社はゼロになった。回収した資金、浮き出た人材を成長分野に再配分した。