アメリカのパイロットは航空機事故において「免責」される

ヒューマンエラーが生じた場合、それを引き起こした要因が何であるのかを突きとめ、解決することが重要である。人を罰するのではなく、そのエラーを教訓として、今後同様のことが生じないようにすべきである。

松尾太加志『間違い学 「ゼロリスク」と「レジリエンス」』(新潮新書)

アメリカでは航空機事故の場合に、当事者に対しては免責が与えられる。航空機事故では、コックピットの中で生じたことはそのクルーにしかわからないことが多い。事故の要因を調べるにはクルーに正しく証言をしてもらわなければならない。自分のミスが誘因となって事故が生じた場合もあるからだ。

その際、そのミスに対して罰が与えられるとすると、自分のミスを隠ぺいしてしまい、ミスを隠すために事実でないことを証言してしまう可能性がある。その結果、本質的な問題が解明されないことがある。すると、潜在的に抱えている問題が解決されない。そして、何も改善されないまま再び航空機の運航が続行されてしまうと、将来的により大きな事故につながる可能性は十分にある。

将来のより多くの乗客の命を守るための選択

1人のパイロットを免責にすることで正しい証言をしてもらう。そう判断をするのが賢い選択である。それによって、将来、大勢の人が遭遇し、より多くの命を失ってしまう可能性のある事故を防ぐことができる。公共の利益を優先するのである。1人のパイロットを免責するのか、将来起こりうるであろう多くの尊い命の犠牲をとるのかという選択なのである。

繰り返すが、ヒューマンエラーは意図的に行った行為ではない。本人がおかれた業務の体制、環境要因、システム、モノ、その人をとりまくさまざまな要因がそろったときに生じている。その人自身を罰することは何の解決にもならない。

もちろん、エラーによって生じてしまった損害は補償しなければならない。ただし、その補償は原則的に組織が負うべきであり、個人に責任を転嫁してはいけない。

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