技術のつたなさが生む魅力

ヘボコンの面白さはなんといっても、出てくるロボットが全部「よくできていない」ことにある。競技はロボット相撲のため転倒したり場外に出たら負けなのだが、出場するロボットたちはひとりでに倒れ、コントロール不能で勝手に場外に出ていく。

また試合前に予告された必殺技は不発に終わることも多く、それでいて試合終了後に暴発したりする。

次の写真は2016年の世界大会で活躍したロボット。マネーキャノンを搭載しおもちゃのお札を発射して敵を攻撃するはずだったが、試合中は不発。しかし土俵外に押し出された瞬間にマネーキャノンが作動し、血しぶきのごとく派手にお札をまき散らしながら敗北した。

筆者提供
札をまき散らしながら敗れる、ポールダンスロボ・パーティーロックアンセム

また、タブレットで操作するロボットが試合直前にアプリのアップデートが始まってしまったこともあるし、前日のメンテナンス中にスピーカーの線を切ろうとしたらロボットごと動かなくなってしまい、当日は小さなゼンマイのおもちゃで出場した参加者もいた。

よくできていないというのは、つまり不確定であるということだ。ロボットが動くかどうか、技が出るかどうか、出ても効果があるのかどうか、全てが不確定。あらゆるハプニングが起こる確率が極限まで高まった空間、それがヘボコンなのだ。観客はほとんど毎試合、ステージで何か事件が起きるのを目撃することになる。そんなエキサイティングなイベントだ。

「ヘボいほど良い」という新しい価値観

もうひとつ、ヘボコンが世界で評価された理由がある。それは価値観の逆転にある。

一般的にこういった技術系のコンペティションで求められるのは、作品の技術力や完成度の高さである。いっぽうでヘボコンが求めているのは技術力や完成度の「低さ」だ。

ここでひとつ注意してほしいのが、ヘボコンは断じて「技術力が低くてもOKなゆるいイベント」ではない。「技術力が低ければ低いほど価値が高い(=高いと無価値)」なのである。ヘボコンの特徴的なルールとしてハイテクノロジー・ペナルティという制度があり、高度な技術を使用した者は罰せられるルールになっている。

また、トーナメントの形態をとっていながら優勝は無価値とされており、最も栄誉ある賞は観客投票で決まる「もっとも技術力の低かった人賞(最ヘボ賞)」と決まっている。

筆者提供
初代、最ヘボ賞のロボット(奥)。電動で操作することをあきらめ、坂を滑らせることで突進する「位置エネルギーエンジン」を搭載した

この「技術が低いほど良い」というコンセプトは、かねて私が他人に失敗作を見せてもらうのが趣味であったことから生まれた。当初は失敗作を集めた展示会を開こうとしていたが、いざ募集をかけてみると、人はわざわざ失敗作を保管しておかないため展示作品が集まらないことが分かった。そのため、初心者が失敗上等で無謀なロボット製作にチャレンジするというヘボコンのコンセプトが生まれた。