一方、犯罪者の「外」に原因を求める立場も、家庭、学校、職場、地域など、犯罪者の「生い立ち」や「身の上」を重視する立場と、景気、都市化、不平等、テレビ、インターネットなど、犯罪者が暮らす「社会」を重視する立場に分かれる。犯罪者の「外」といっても、家族や友人などが住む、身近で目に見える環境から、社会や文化など、漠然として捉えにくい環境まで、様々な「外」があるわけだ。

このように、犯罪原因論は、犯罪者の「内」から「外」まで、犯罪者をめぐる多種多様な原因を扱う。したがって、特定の事件について、犯罪原因を特定することは至難の業である。少なくとも、マスコミや一般の人たちが、犯罪が起きた後に原因を解明することは不可能に近い。

要するに、意外かもしれないが、容疑者という「人」に注目しないことが、犯罪予防の第一歩である。もっとも、「場所」に注目する立場を取ったとしても、それだけでは予防にはつながらない。次には、「リスク・マネジメント」と「クライシス・マネジメント」の区別が必要になる。リスク・マネジメントは危機が起こる前(平時)のことで、クライシス・マネジメントは危機が起こった後(有事)のことだ。

今回の事件についても、コンビニに非常ベルを設置するとか、カラーボールを投げるといった対策を取るべきだと、報道されている。しかし、これらはすべてクライシス・マネジメントである。すでに店舗が襲われているからだ。

コンビニのリスク・マネジメントと、その理論的コンセプト

リスクとクライシスの区別については、例えば、中国最古の医学書でも「名医は既病を治すのではなく未病を治す」と書かれているという。その言葉を借りるなら、クライシス・マネジメントは既病を治す、リスク・マネジメントは未病を治すである。真の意味で予防と言えるのは、リスク・マネジメントだけなのである。

では、コンビニのリスク・マネジメントとは何か。その基本になるのが犯罪機会論だ。犯罪機会論では、犯罪が起きやすいのは「入りやすく見えにくい場所」であることがすでに分かっている。実は、その知見に基づいて設計されたのが、アメリカ生まれのコンビニだ。

20世紀末まで、つまり、犯罪機会論が導入されるまで、コンビニでは強盗が多発していた。格好のターゲットになっていたわけだ。そこで、強盗を徹底的に捕まえようと警察力が強化された。当時のアメリカは犯罪原因論が主流だったので、強盗犯という「人」に集中したのは自然な流れである。ところが、強盗事件の増加を食い止めることはできなかった。そうして、溺れる者は藁をもつかむという気持ちで飛びついたのが犯罪機会論だった。

試行錯誤の結果、出来上がったデザインが今のコンビニだ。出入り口を1カ所に限定し、「入りにくい場所」にした。そして、道路側を全面ガラス張りにし、「見えやすい場所」にもした。レジカウンターを出入り口近くに置いたのも、道路から「見えやすい場所」にするためだ。その「見えやすさ」は、伝統的な古本屋などと比べれば、一目瞭然ではないだろうか。