しんどい下働きが「僕のメンタリティに合ってるんですよ」

前の年の試合のビデオを見ると、信じられないくらい弱いことを認識させられた。帝京、早稲田、明治、慶應などとの試合で取ったトライは全部でたった7本だったが、取られたトライは100本ほどあった。松瀬は「あれじゃあ学生がかわいそうだ。ワンサイドばかりで、選手はつらかっただろうな」と思ったという。

最近の日体大には致命的な弱点があった。ラグビーの基本であるタックルができていないのだ。相手選手が猛スピードで、もしくは華麗なステップで突進してくる。その腰や太もも、膝あたりに両手で突っ込み、倒す。走ってそれを何度もやる。それはキツイ作業だが、勇気も求められる。タックルしなければ、簡単にトライを許すことになる。

弱点はもうひとつ。体力のなさだ。実はけが人が多かった。その数、1シーズンでのべ百何十人にのぼる。95人の部員を上回る数字だった。

「ケガが多いのは、体が弱いということ。今のラグビーの流れはフィジカルバトルになっている。からだ作りは、筋トレに加えて睡眠。それに朝昼晩の3食が重要です」

丈夫な体を作ることが急務だ。松瀬が学生に聞き取り調査をすると、昼食を食べていないこともあることが判明した。朝と夜はラグビー部が大学の食堂での有料提供をしているが、昼は各自に任せている。ところが、お金や時間にゆとりがないからコンビニのカップ麺で済まさざるをえないといった理由で昼食がおろそかになっていた。

「こんな状況じゃ戦える体にはならないな。栄養ある昼飯を食わせたろうと」

撮影=清水岳志
松瀬学氏

部で昼食を無料提供できないか。そんなことを考えたが、金がない。予算が厳しい。寄付を募れないだろうか。試しに一部のOBにお願いをしたら、猛反発を食らった。

「(学生は)金は他に使ってるんだろう、昼飯ぐらい、自分たちで払わせろ」

そういう見方もあるだろう。しかし、金がないんだから昼飯が食えない、という物理的な問題だ。OBの反対を押し切って、寄付金集めを決行した。

すると保護者たちは協力してくれた。説明を尽くしたことで日体OBも納得して寄付してくれた。また苦労を聞きつけた早稲田の同期、前後の世代のOBや慶應、東大の友人からも届いた。他の大学の関係者が日体大の昼食代を出すという珍しい結果だが、300万円ほど集まった。昼食予算を確保することができた。

入れ替え戦で勝って1部に戻れた時、松瀬はホームページの日記にこう書いた。

<ふっきメシ(1部復帰必勝メシ)>

撮影=森屋朋子
入れ替え戦勝利に歓喜の日体大

このスタミナ昼食が部員の体力を確実に向上させ、けが人も減った。2部に落ちた昨シーズンは体重を測ると公式戦当初と終わりとでは平均で2、3キロ落ちていた。今シーズンは2キロぐらいアップしていて、効果が見られた。