7時間より10時間睡眠のほうが早死にしている
少し複雑かもしれませんが、ここまでをご理解いただいたうえで、改めて図表1と2のグラフをご確認ください。
「直近の2年以内に亡くなった方」を除いても、データの傾向としては、それほど変わらないことがお分かりいただけると思います。
どちらのグラフとも、10年後の死亡率が一番低いのは7時間睡眠ですが、5~7時間の睡眠は、それほど死亡率が変わりません。
ですから、睡眠時間が多少短いのは、あまり気にする必要がないということになります。
問題なのは、7時間以上の睡眠です。
8時間、9時間、10時間と睡眠時間が増えるにつれて、死亡率がどんどん上がっていきます。
つまり、長く寝る人ほど、早死にしているのです。
ちなみに「4時間以下の睡眠」の人たちがどうなるのかと言うと、死亡率が大幅に上昇します。
ですが、玉腰教授のデータをもとに私が作成したグラフでは、あえてその部分にマスキング(データを覆い隠す手法)を施しました。
その理由は、4時間以下の睡眠の人は、全体の0.7%しかいないからです。
他と比べて、母数があまりにも少なすぎるため、マスキングを施しました。
あえて付け加えておくと、現在の日本において、「過労死」という考え方が当てはまるのは、主にこの「4時間以下の睡眠」に属する人たちです。
社会的な問題を抱えているのは、まさにこの方たちです。
過労死の問題を放置しておいていいはずがありませんし、4時間以下の睡眠は非常に危険ですから、ただちに是正されなければなりません。
「8時間は寝なさい」は中高年に当てはまらない
しかし、データをご覧いただければ分かるように、過労死の危険がある「4時間以下の睡眠」の人たちは、11万人中の数百人程度で、全体の1%未満にすぎません。
言わば特殊例であって、特殊例に通用する概念である「睡眠負債」を、特殊例以外の99%以上の人たちに当てはめることは危険だと思います。
玉腰教授のデータが示すとおり、99%以上の方たちにとっては、「睡眠不足」よりも「寝過ぎ」の方が、はるかに大きな問題なのです。
10年前、私は『4時間半熟睡法』という本をビジネスパーソン向けに書きましたが、この本にも書いたとおり、短時間睡眠の限界は「4時間半」です。
この本で、私は「睡眠の質が良ければ、4時間半の睡眠で問題ない」という主旨のことを書きましたが、玉腰教授のデータからも、その正しさが実証されたと感じています。
我々は子どもの頃から「8時間は寝なさい」と教えられてきました。
ですから、大人になってからも、「8時間は寝ないといけない」「最低8時間は寝たい」と思い込んでいましたが、実はここに大きな落とし穴があったのです。
これから成長していく子どもと違い、大人、特に中高年は体がどんどん衰えていくわけですから、「子どもに対する睡眠指導」=「8時間は寝なさい」が、中高年にそのまま通用するわけがありません。