「政治家になって明石市を変えてやる」10歳で抱いた強い気持ち
私には障害を持つ弟がいました。弟や、その家族である私たちに、明石市とそこに住む人々は冷たい態度でした。涙がにじむほどに悔しい思いを何度もして、「政治家になって明石市を変えてやる」と心に誓ったのが10歳の頃。その気持ちを30年以上持ち続け、私が明石市の市長になったのは47歳のときです。私には、「この街を変える」という本物の気持ちがありました。本物の気持ちで語る言葉は強いです。お金や人脈なんかより、よっぽど強い。
恥ずかしい話ですが、私が演説で話すときには、泣いてしまうことがよくあります。弟のことや明石の街への思いを語ると、自然と涙がボロボロと出てきてしまうのです。それを見た市民のみなさんは、「あ、この人、本気なんやな」と思う。「なんか暑苦しい人やけど、明石のことを本気で考えてくれてるんやな」と感じてくれる。妙に理路整然とした、上っ面だけの言葉じゃなく、本気で語られる芯のある言葉は、聞いてくれる人の心を動かすのです。
すると次の日、その演説を見た人が、違う誰かに「昨日演説してた泉さん、すごかったで」と、その様子を伝えてくれる。「ホンマに? ちょっと行ってみるわ」と、演説を聞かなかった人が興味を持ってくれる。それがどんどん広がれば、共感を生み、知名度につながり、貴重な一票となって返ってきます。
お金や人脈がなくても、マイク1本あれば、選挙で十分戦えるのです。もっとも、地声が大きい私は、マイクすら不要かもしれませんが(笑)。
選挙は熱伝導です。発信する人には、火の玉のような燃え盛る情熱があります。演説を聞いた人は、それに触発されて熱が出る。その熱が、演説の場にいなかった人にも伝わっていく。この熱伝導が広がれば広がるほど、強い立候補者になっていきます。
なぜ選挙カーから「日本の平和を守る」と叫んでも響かないか
熱をいかに遠くまで伝えられるかは、語る言葉の誠実さ次第です。
政治家が選挙カーで、「日本の平和を守ります」とか「税金を減らします」とか叫んだところで、誰の心に響きますか? 決まり文句を並べているだけでは、何のリアリティもありません。誰かが書いた原稿をそのまま読み上げているようで、聞いていても面白くありませんよね。聴衆の心を動かすには、自分だけの言葉で語るべきです。それはつまり、具体性とリアリティのある話をすること。
減税を主張するなら、税金を減らして具体的にどんな人を助けたいのか、そう思ったきっかけは何だったのか。自分の体験も交えながら、本音トークをしなければいけません。結局のところ、選挙で一番大切なのは、市民の共感を得ることです。「この人は本当に私たちの気持ちをわかってくれている」と思ってもらうために、有権者と同じ目線に立つところから選挙活動は始まります。