杉山 川があるということは、橋がないと渡れない。
宮崎 橋は4本かかっています。それでも朝夕の通勤時間帯に混雑してしまう。清原工業団地と芳賀・高根沢工業団地で働く人は合計で3万6000人くらいです。清原工業団地は内陸型としては国内最大級で、キヤノンさん、カルビーさんなど、皆さんご存じの大手企業さんも入っています。芳賀・高根沢工業団地は本田技研工業と関連企業さんです。
杉山 本田技研工業の敷地はオーバルコースの実験線もありますね。
宮崎 技術開発拠点として、F1のエンジンも手がけているそうです。これらの施設に勤めている皆さんがどこに住んでいるかというと、7割くらいが市内です。朝の通勤時間帯とお帰りの時間帯は、どうしても橋が通りにくい状況が発生していました。企業さんも、混雑で地域に迷惑をかけているという認識があるようで、フレックスタイムを導入して時差出勤してもらうとか、通勤バスとして、駅東口からそれぞれの企業さんが直接送迎バスを出してました。そうした努力をされていても、なにしろ数が多いので解決しにくい。
杉山 ライトレールの終点、芳賀・高根沢工業団地停留場の周りに広い駐車場がありますね。大きな建物で立体駐車場もありました。クルマを置いとくだけって、もったいない土地の使い方ですね。生産設備にしたいのに。
宮崎 工業団地通勤渋滞が、従前から宇都宮市の課題でした。そのほかに、少子“超”高齢化、人口減少など、他の地方都市が抱えている課題もあります。そこで宇都宮市はネットワーク型コンパクトシティというまちづくりを打ち出しています。一極集中型のコンパクトシティではなく、地域ごとに便利な拠点を作って、そこにゆっくりと人口を集めていく。その拠点を、公共交通や道路交通など、全ての交通ネットワークで結んでいきましょうというようなまちづくりです。
「反対の声はたくさんいただきました。しかし…」
杉山 それぞれの拠点はにぎやかだけど、市の全体はゆったりして住みやすそうですね。
宮崎 集約型で行政のコストを削減しつつ、人々の往来を増やして経済を活性化させていく。「暮らす人に選ばれる都市」にしよう、という考え方です。この構想の実現には、総合的な公共交通ネットワークの形成が必要不可欠です。ところが宇都宮市に東西をつなぐ基軸交通がない。そこで東西の基幹公共交通としてLRTを導入しましょうと、これを決めたのが2013(平成25)年です。宇都宮市で方針を作りまして、お隣の芳賀町さんも大きな工業団地を抱えてますので、一緒にやりますと延伸の要望がありまして一市一町と、私たちのライトレールという会社で事業を進めました。
杉山 立案当時は清原工業団地がきっかけという報道もありましたが。
宮崎 はい。清原工業団地は栃木県と宇都宮市の一部事務組合で造成したんです。造成の段階から、通勤にあたって何かしらの新交通システムも必要だと、1993(平成5)年頃から検討を始めました。LRTを開通させたいだけではなく、まちづくり全体をどうしていきたいか。その1つの装置としてLRTを導入したという経緯です。
杉山 お役所って「前例がないからだめ」みたいな空気がありませんか。
宮崎 反対の声はたくさんいただきました。しかし、都市の規模、市の財政規模も検討して、東西の基軸となる交通機関だから、ある程度の輸送量は当然必要だ。ただ、AGT(新交通システム)やモノレール、地下鉄は事業規模が大きすぎた。基本的にはLRTとBRT(バス専用レーンを使った高速輸送システム)に絞られて、やっぱりBRTは輸送量に限りがある。BRTは専用走行区間を作り、その他の道路で路線を変えられる。しかし、今回の「工業団地と宇都宮市中心部を結ぶルート」を突き詰めていけばLRTと同じではないかと。
杉山 BRTにしたら、結局は西口のバスのような混雑になるだけだと。
宮崎 おっしゃる通りです。あとは地図に明示性があるか。しかも鉄道は地図に残る。つまり都市の中で明示性がある。民間の鉄道会社が新しく線を引くよっていう話ではなく、まちづくりの施策として、どういう風に絡めていくかという部分が重要になっているという認識です。これは視察に見えた議員さんからも、「どういうまちづくりをしたいかという、首長の確固たる自信がないとできない」と伺います。