「表現できない値」があるからデジタルに価値がある

一見逆説的ですが、「値が離散値であり、表現できない値が存在すること」というのがデジタルの価値なのです。なぜならば、離散値であれば、誤りなく伝えることができるからです。また、適度な桁で捨てられていることも大切です。連続値を数字で正確に伝えるには、無限に続く小数点以下の値を述べなければならないので、無限の時間がかかるからです。適度な粗さの離散値は適切な情報量(通信時間)で伝えることができるのです。

アナログの連続値は伝送の過程でノイズが乗り、元の情報が損なわれてしまうという問題もあります。これを「数字や言葉を使わないで人から人に情報を伝える伝言ゲーム」で考えてみましょう。

アナログの連続値、たとえば「自分の親指の長さ」という物理量を伝えたいとしましょう。最初の人は、自分の親指の長さと同じだけの長さの紐を作って、次の人に渡します。紐を渡された人は、また同じ長さの紐を作って次の人に渡します。これが何回も繰り返されたらどうなるでしょうか? 寸分違わぬ長さで伝わるのは不可能でしょう。ひょっとしたら紐の長さは何倍にもなっていたり、半分以下になっていたりするかもしれません。

縄の結び目で情報を伝える手法

この思考実験は、連続値を連続量のまま伝えようとすると、伝送の過程でノイズが乗り、ノイズが増幅されていく様を示しています。アナログの値は物理量なので、物理的な仕組みで取り扱いやすい反面、情報を伝える過程で変質してしまい、正しく情報を伝えることが困難なのです。

これが「7cm」という離散値のデジタル情報であれば、紐に7つの結び目を作って表現することができます。この紐を次の人に渡すことで、次の人は同じように7つの結び目がある紐を作ることができます。結び目が意味を持っているとわかっている人同士でこの伝言ゲームを繰り返すと、紐の長さは最終的には変わるかもしれませんが、7つの結び目がある紐であることは変わらないはずです。これがデジタルの力です。離散値は値を正確に伝えることができるのです。ちなみに縄の結び目で情報を伝える手法は、世界中の多くの文明で用いられており、日本ではアイヌや琉球で用いられていたようです。

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