それでも都内の新築マンションは分譲開始直後の完売が相次いでいます。購入者には富裕層や投資家もいますが、新築分譲されるマンションの大半は3LDKのファミリー物件であることから、マイホームとして購入する子育て世帯も一定数いるようです。
年収1000万円で「億ション」は買えるのか
「マイホームを買うなら新築を」と考える人もいるので、今や「億ション」は必ずしも「とてつもないお金持ちが買うもの」ではなくなってきているのかもしれません。
実際のところ、世帯年収1000万円で「億ション」は買えるのでしょうか。都内の不動産仲介会社エニスト代表取締役の杉山新太郎氏に聞くと、「低金利の影響で億近い価格の物件を購入することのハードルが下がっているのは確かです。10年前であれば年収2000万円はないと買えなかったが、今は年収1200~1300万円あれば1億円のローンを組むことはできる」と言います。
住宅購入を考えるとき、いくらくらいの物件なら買えるのかを判断する目安になるのが「年収倍率」です。物件価格に対する世帯年収の比率は、中古住宅では平均で6倍弱、新築住宅では7倍前後となっています(住宅金融支援機構 2021年)。年収1000万円であれば物件価格6000~7000万円が目安ということになります。
しかし中には「都内では7倍以上、なかには10倍というケースもある」(先述の榎本氏)と言い、そうすると、数字上は年収1000万円で1億円の物件を狙うことも不可能ではないことになります。
この「年収倍率」はあくまでも目安ですが、実際の住宅ローンの借入可能額を大きく左右するのは、年収に対する年間のローン返済額の負担率(返済負担率)です。金融機関が物件価格に対する借入金の割合(融資率)や契約者の勤務先、勤続年数などから個別に審査するため一概にはいえませんが、多いのは15~20%、高くても40%程度が返済負担率の目安といわれます。
仮に年収1000万円の人が借入金利1.5%で1億円を借り入れる場合(35年・元利均等返済)、返済負担率は36.7%になります。つまり額面の年収が1000万円あれば、理論上はフルローンで億ションにギリギリ手が届く計算になるのです。
しかし実際は、返済負担率35%超という水準はかなり高負担で、借入額が1億円近くともなると、そう簡単には融資がおりないのが現実です。また、借入時の返済負担率が低くても、途中で収入が下がれば年収に占める返済額の割合は高まってしまいます。
勤続年数や勤務先などの状況から、必ずしも年収が安定しているわけではないと判断されたり、共働き世帯が夫婦2人の収入でローンを返済する前提であれば、近い将来に産休や育休を取って収入が下がるリスクがあると判断される可能性もあります。
そういった観点から、1000万円ぴったりに近い世帯年収で「億ション」を購入するケースはきわめてまれというのが実情のようです。
前出の2人も、1億円レベルの物件を購入するのは「世帯年収が2000万円以上のケースが中心」と口を揃えます。2023年現在、年収1000万円台の世帯が都内で購入する物件の価格は高くても7000~8000万円までで、「堅実にいくなら、物件価格5000~6000万円程度が理想」(杉山氏)だといいます。