子どもが生活費や介護費を立て替える事態に

たとえば、介護施設の入所契約といった法律行為は、意思能力と行為能力という2つの能力が求められます。本人が認知症であっても、家族や身元保証人が代わって契約することを認める施設もありますが、最近は「入所契約は成年後見人でなければならない」とする施設が増える傾向にあるようです。

また、有料老人ホームに入居するために、実家を売却して資金を捻出しようとしても、認知症の親が売却手続きをすることはできません。

何の手も打たないまま親が認知症になってしまうと、親の口座からお金を引き出すことができず、日常の生活費や医療、介護の費用を子どもが立て替えざるを得ない事態に陥ります。認知症の介護期間は平均6~7年(※1)ですが、もっと長期にわたることもあり、子世代も高齢になっていきますから、遅かれ早かれ厳しい状況に直面するのは目に見えています。

※1 認知症の人と家族の会『認知症の人と家族の思いと介護状況および市民の認知症に関する意識の実態調査報告書』(2019年9月~2020年1月調査)より

任意後見制度の利用者は1%しかいない

成年後見制度とは、認知症などで判断能力が不十分になった人に対し、不動産や預貯金などの財産管理や、介護サービスに関する契約の締結などを支援する制度です。法定後見制度と任意後見制度の2種類があります。

法定後見制度:すでに判断能力が低下した人に対して家庭裁判所が保護する人を選任する制度

任意後見制度:判断能力が十分なうちに信頼できる人(任意後見人)を自ら選び、本人がしてほしいと思う事務を委任し、代理権を与えておく制度

法定後見制度には、「成年後見」「保佐」「補助」の3類型があります。「成年後見」類型は、判断能力がほとんどなくなってしまった人に適用されるもの、「保佐」類型は、判断能力が相当程度低下してしまった人に適用されるもの、「補助」類型は、判断能力がある程度低下してしまった人に適用されるものです。

法定後見3類型と任意後見の利用者割合は、成年後見が73%、保佐20%、補助6%、任意後見1%と、圧倒的に法定後見の利用者割合が高くなっています(図表2)。

筆者作成