「南海トラフ地震が噴火を誘発する可能性は高い」
言うまでもなく、日本は世界有数の「火山国」だ。世界には約1500の活火山があるといわれるが、その1割近くが我が国に存在する。気象庁は今後100年程度に噴火の可能性があることを踏まえ、富士山を含む50カ所の火山を24時間態勢で監視している。だが、西村教授が指摘するように「地震が噴火のトリガー」となることがあれば、大地震の襲来とともに富士山の噴火が誘発される急展開も想定しなければならない。
実際、今から約320年前の宝永噴火が起きた直前には巨大地震が襲来しており、その恐怖が再来しない保証はまったくない。東京大学の藤井敏嗣名誉教授(山梨県富士山科学研究所所長)は、「南海トラフは富士山の近くを揺らす。富士山がそれまでに噴火をしていなければ、南海トラフ巨大地震が噴火を誘発する可能性は高い」と警鐘を鳴らす。
高い確率で発生すると予想される首都直下地震、南海トラフ巨大地震の襲来に加え、富士山の噴火が重なる「大連動」にも備えなければならない時期を迎えているのは間違いない。
噴火によって首都圏に降灰が2週間続く
富士山は300年以上も「眠り」続けている。だが、最高峰の活火山が目を覚ませば広範囲に被害をもたらすのは言うまでもない。首都の治安を維持する警視庁は、大規模噴火への警戒心を隠さない。「富士山がいつ『起きる』のかはわからないが、噴火して都市機能が集積した首都圏に降灰が2週間続き、国民生活や社会に大きな混乱が生じるとのシミュレーションがある」と危機感を募らせる。降灰下でも警察職員が屋外での活動を継続できるようゴーグルやヘッドライトといった装備品の配備を進めている。
都は2023年5月に有識者を交えた「富士山噴火降灰対策検討会」を立ち上げ、降灰除去等に向けた具体的な検討に入った。2023年7月、全国知事会議が開かれた山梨県の会場では、長崎幸太郎知事のもと、火山のある23都道県が課題の共有を行った。
では、富士山が噴火したら何が起こるのか。富士山の防災対策は2000年から本格的に検討されてきた。富士山直下で低周波地震が多発したのがきっかけで、2001年7月に国と関係自治体が「富士山火山防災協議会」を設置。2004年から富士山周辺の住民にハザードマップが配布されている。