薬の必要性は体と心が教えてくれる

副作用の話をすると、「絶対に薬を飲まない」という極端な選択をする人がいます。

しかし、それで人生のご褒美時間を楽しむだけの健康を保てるでしょうか。

薬の使用も、白か黒かの二分割思考ではなく、副作用のリスクを理解しつつ、必要な治療は取り入れていくという、自分なりのグレーの部分を見つけていきましょう。

たとえば、何十年も、就寝前に市販の頭痛薬を飲み続けている高年の女性が、私の患者さんにいます。それを飲むと、よく眠れるのだそうです。

医学的に見れば、睡眠の質という点において、その薬に意味はありません。むしろ、依存性や胃腸への負担も大きく、継続して飲まないほうがよいと伝えたいところです。

とはいえ、患者さん自身にとっては、今のところ困った症状は何も出ておらず、それを飲むことで気持ちが落ち着き、よく眠れるといいます。ということは、飲み続けることが、彼女にとって最良の選択となります。

このように、その薬が自分に必要かどうかは、自分の体と心が教えてくれるのです。

私も、自分自身の健康管理のために、薬を何種類か服用しています。

まず、胃腸薬を飲んでいます。なぜ飲むのかといえば、慢性の下痢や胃痛に悩まされているためです。飲んだほうが一日を元気で過ごせるため、服用しています。

高血圧の薬も飲んでいます。現在のところ、薬を飲まないと最大血圧が200mmHgを超えるほど上がるので、薬の力を借りているのです。なお、血圧の正常値は、最大血圧が140未満mmHg、最小血圧は90mmHg未満です。

私の場合、高血圧治療ガイドラインが示すこの数値まで血圧を下げると、頭がボーッとしてどうにも調子がよくないので、正常値より高めの170mmHgを維持しています。この数値だと頭がスッキリして思考力が保たれ、元気に過ごせるのです。

血圧を下げる「引き算医療」は体にダメージ

すでに動脈硬化がある高年者に、正常値より数値が高いからといって「薬の力で正常値まで血圧を下げる」という引き算医療は、ダメージを与えます。なぜでしょうか。

動脈硬化を起こすと、血管の壁が厚くなります。そのため、血圧を多少高くしてでも血液を巡らせないと、脳に酸素や栄養素が届きにくくなります。つまり、加齢によって血圧が高くなるのは、動脈硬化に対処するための適応現象なのです。

にもかかわらず、正常値まで血圧を下げると、脳は酸素と栄養が不足します。これによって、頭がボーッとする、だるい、足がヨタヨタする、などの不調が現れます。

低血圧の人は、体がだるい、動くのが億劫になるなどの症状を訴えます。それと同じ状態が、高血圧の人が降圧剤を多く飲むと、人工的に作り出されてしまうのです。

ですから、高齢者は血圧を高めにコントロールするほうがよい、と私は考えます。

また、血糖値が高くなった場合も、薬で正常値まで下げる引き算医療が始まります。

血糖値も、動脈硬化が進むと、脳にブドウ糖を送るために高くなるのが自然現象です。

それなのに、血糖値を下げる薬を使ってしまうと、正常値を維持していたとしても、ふらつきや動悸(どうき)痙攣(けいれん)といった低血糖の症状が出ることがあります。