遺族「本当にありえない判決です」

そして、2021年2月17日、名古屋高裁(堀内満裁判長)が下したのは「控訴棄却」の判決でした。判決文には次のように記されていました。

「制限速度60km毎時の一般道を時速約140kmを超える高速度で、しかも頻繁に車線変更を繰り返し、ほかの車両の間隙を縫うように走り抜けるという、公道である本件道路をあたかも自分一人のための道路であるかのごとき感覚で走行するという身勝手極まりない被告人の運転が常識的に見て『危険な運転』であることはいうまでもない」

しかし、「危険運転致死傷罪」を適用しなかった理由については、こう述べられていました。

「衝突時の被告人車両の速度、被告人車両の構造・性能、本件道路の状況などを踏まえてみても、被告人の行為が、法2条2号の進行制御困難高速度に該当するとはいいがたく、本件で危険運転致死傷罪の成立を認めることは困難である」

進行制御困難高速度に該当するとはいいがたく……、まっすぐ走れていてれば時速146キロの無謀な運転でも「危険運転」の罪に問えないのでしょう。名古屋高裁は過失致死傷罪で懲役7年とした一審の裁判員裁判の判決を支持し、判決は確定しました。

この事故で、結婚を目前に命を奪われた大西朗さん(当時31)の母・まゆみさんは、悔しさをにじませます。

「本当にありえない判決です。あのような運転が危険運転でないというのなら、いったい何を危険運転というのか……。判決確定から2年が経ちましたが、今も納得することができません」

写真=遺族提供
婚約者がにぎったおにぎりを食べ、海苔を歯につけておどけている大西さん。この写真が撮影されてから間もなく事故は起こった。

過失運転の理由は「衝突するまでまっすぐに走れていた」から

このほかにも、制限速度を大幅にオーバーした高速度での死傷事故は枚挙にいとまがありません。私が最近、取材・執筆した最近の記事からいくつか挙げてみます。

一般道で時速157キロ、6人死傷事故になぜ執行猶予? 息子亡くした遺族の悲憤(2022.7.22)

この事故は、2021年7月24日午後10時10分頃、当時18歳だった専門学校生の被告が自分の車に友人5人を乗せて買い物に行く途中、一般道で時速157キロ出し、橋の欄干に激突。欄干のポールが車に2本突き刺さり、後部座席に乗っていた少年(18)が死亡、被告を含む5人が重軽傷を負うというものでした。

遺族や被害者は「危険運転」で起訴するよう訴えましたが、検察は「衝突するまでまっすぐに走れていた」という理由で、過失運転致死罪で起訴。結果的に懲役3年執行猶予5年の判決が下されています。

「悪質かつ重大」でも過失運転になる

また、埼玉県鴻巣市で2019年に起こった以下の事故も、免許取りたての18歳の少年による暴走事故でしたが、「過失」で処理されました。

※【4人死傷】無謀運転の少年に奪われた命 日本も初心者ドライバーに法規制を(2021.5.10)

この事故では、少年が車に3人を乗せ、制限速度40キロの道を時速118キロで走行。危険を感じた同乗者らは「事故るだろ、やめろ!」などと叫びましたが、少年はアクセルを踏み続け、対向車を避けるために大きくハンドルを切ったことで車はガードレールを乗り越えて縦回転し、前方に停車していた重機に突き刺さった状態で停止したのです。