大手が入ってこれない市場を狙った
――現在の開発体制に至った経緯を教えてください。
亀田登信執行役員・開発本部副本部長:日本では1985年以降、ワープロの普及などでオフィスのOA化が急速に進展しだしました。当時はファイル一辺倒であった我々はファイル需要が減少するのではないかと相当な危機感を持っており、それがラベルプリンター「テプラ」の開発へと繋がりました。しかし、当初の見込みとは裏腹に、オフィスで使用される紙の量は増加の一途をたどり、それに伴ってファイルやラベルプリンターの需要も右肩上がりが続いていったのです。背景にはプリンターの普及があり、これがかえってオフィスでの紙の使用を促進したという事情がありました。
しかし08年のリーマンショック以降、様相は一変します。企業がコストカットに走ると共に、ハードディスクの大容量化やオンラインストレージの普及により、一度プリントアウトした紙は使用後にシュレッダーにかけるようになり、本当に大事な文書だけをファイルに綴じるようになった。つまりそれほど大事でない文書はデータで残っていれば十分、となってしまったのです。ここで初めて、ペーパーレス化が急速に進み始めたことを実感しました。そうした背景から、ポメラやマメモなど『電子文具』へと舵を切ることになったのです。
実は「電子文具」の企画自体はすでにもうありました。しかしそれまでの当社は「消耗品」で稼ぐビジネスモデルでしたから、モノを売って完結するモデルにはなかなか踏み出せずにいたのです。現に電子文具の発売に踏み出したところ、同業者から「キングジムさん、方針を変えましたね」と指摘されたものです。当社としては「勝ちパターン」ではありませんでしたが、こういったご時勢ですし、思い切って取り組みました。
これが大手だとそううまくはいかなかったでしょう。マス狙いの視点であれば「こんなものが売れるか」となってしまいます。中堅の我々としては、大手では通らない企画、つまり大手が狙ってこない市場に参入する必要があったのです。マスを狙おうとすると消費者の綿密な調査が欠かせませんし、売り上げ規模も最低10億、普通なら100億円規模の製品をつくっていかなければなりません。その点、当社の電子文具は「いらない」という人が圧倒的。ニッチ狙いの提案型製品では、1億人のうち、10万人がお客様になってくれればいいのです。われわれの規模であれば、その程度の売り上げでも十分食べていけるわけです。