市長選の候補者には「小学校からやり直せ」

ただ、テレル氏はここでリスナーに、自分の主張を正しいと思い込ませるための蘊蓄を伝授するのを忘れない。性別を決める性染色体は、男性はXYのペアであり、女性はXXのペアであるという科学的な知識について触れるのだ。そして、こんな単純なことは生物学を学んでいない私でも知っているのに、ジャクソン氏はそれすら答えることができなかったと批判する。その上で、リスナーからの電話を受けて、テレル氏の主張は正しいと盛り上がるという流れだった。

及川順『非科学主義信仰』(集英社新書)

そして、二つ目のお題は、2022年11月に投票が行われるロサンゼルス市長選挙の公開討論会だ。このコーナーの冒頭でも、テレル氏は、市長選挙の候補者たちが考えていることを文字にするとEGOの3文字、つまり、私利私欲(エゴ)のことしか考えていないとまずは批判してみせた。その上で民主党の有力候補について言及した。

大富豪の経営者、リック・カルーソー候補については、「金があるから自分でボディーガードを雇えるが、対立候補に金を配った」と言及。連邦下院議員から市長への転身を目指す黒人女性政治家のカレン・バース候補には、「キューバのカストロのことを偉大なリーダーだと思っている社会主義者だ。さすがのバイデン大統領も左過ぎると思って副大統領にしなかった」と批判。

市議会議員から市長へのステップ・アップを目指すケビン・デ・レオン候補には、「忠誠の誓いを言えなかった。小学1年生に戻った方がいい」とこき下ろした。

忠誠の誓いは、学校の全校集会などで、子どもたちが胸に手を当て、星条旗に向かって述べるものだ。いつもやっているので子どもたちは暗唱できるのが普通である。それすらできないのは、愛国心が足りない証拠ということなのだろう。

ラジオを通じて「非科学主義」が浸透している

そして、番組の終盤、テレル氏は、トランプ政権時代を思い出すようリスナーに呼びかける。「トランプ氏の人格が嫌いだという意見も理解する。しかし、トランプ時代にはアメリカは外国の戦争に巻き込まれなかった。アメリカ兵は1人も死亡しなかった。それに比べて、今のホワイトハウスはどうなのか見てほしい」と番組をしめくくった。

ニュースを見なくても、新聞を読まなくても、トーク・ラジオを聴けば、連邦最高裁判事候補に対する議会上院公聴会、そして、ロサンゼルス市長選挙の候補者討論会という重要な政治の動きがあったことを知ることができる。そして、それをどう見るべきかについても教えてくれる上に、科学的な知識まで授けてくれる。

クリティカル・シンキングなどの思考法とは無縁で、ホストの毒舌に共感し、無批判に受け入れる人にとっては気持ちよく聴ける内容だと感じた。しかし、それは逆に言えば、トーク・ラジオを通じて「非科学主義」が人々の間にどんどん浸透していることを意味している。

関連記事
なぜ被害者たちは「日本記者クラブ」ではなく「外国特派員協会」を選ぶのか…国内マスコミが抱える根本課題
なぜ若者の「テレビ離れ」は止まらないのか…テレビとネットの力関係が逆転した根本原因
台湾がアメリカの「準州」になるシナリオはある…バイデン大統領の「台湾を守る発言」の真意を解説する
「日本人から漢字を取り上げ、ローマ字だけにする」戦勝国アメリカが実行するはずだった"おそろしい計画"
1230kmのパイプラインも作ったが…ロシア依存だったドイツが超強気に急変した本当の理由