社会保障費負担の増加は避けられない
前述した政府見通しの第二の問題点は、代替的政策との比較がないことだ。人口高齢化への対応策として、原理的には、つぎの2つのケースが考えられる。
第一は、給付調整型だ。保険料率や税率を一定とし、年金や医療費の給付を切り下げる。第二は、負担調整型だ。現在の給付水準を維持し、それに必要なだけ国民の負担を引き上げる。
では、政府見通しは、このどちらなのだろうか? さきほど見たように、実額では、負担も給付も、どちらも約60%伸びる形になっているので、このいずれなのかを判別することができない。そこで、ゼロ成長経済を想定した場合に、一人当たりの給付や負担がどうなるかを見よう。
ここでは、計算を簡単化するため、「社会保障の受給者は65歳以上人口であり、費用を負担するのは15歳から64歳人口である」と単純化しよう。また、15歳から64歳人口のうち就業人口となる人の比率は、現在と変わらないものとする。
2018年から2040年までの人口の変化は、つぎのとおりだ(国立社会保障・人口問題研究所の中位推計)。
・65歳以上人口は、3561万人から3921万人へと1.101倍になる
先に見たゼロ成長経済における社会保障給付の対GDP費の増加率10.7%は、いま示した65歳以上人口の増加率(10.1%)とほとんど同じだ。つまり、政府推計では、65歳以上人口の増加率と同じ率で社会保障費が増える(つまり、一人当たり給付は、ほぼ現在の水準を維持する)とされていることになる。そして、それを賄うために、負担を増加させるのだ。
試算では一人当たりの負担額は“4割増”になる
すでに見たように、負担は、全体で1.130~1.139倍になる。そして、負担者が0.795倍になる。したがって、一人当たりの負担は、低くて42%増(1.130÷0.795=1.42)。高くて43%増(1.139÷0.795=1.43)だ。これは、驚くべき負担率の上昇だ。このような負担増が本当に実現できるだろうか? どう考えても無理なのではないだろうか?
給付は、全体で10.7~12.1%増加になる。そして、受給者が1.101倍になる。したがって、一人当たりでは、低くて0.5%増(1.107÷1.101=1.005)、高くて、1.8%増(1.121÷1.101=1.108)だ。
このように、給付の切り下げはないと想定されている(むしろわずかだが、給付水準は上昇する)。このように、政府の見通しは明確に負担調整型だ。つまり、一人当たり給付は、現在とほぼ同じレベルを維持し、それに必要な財源を調達すると考えられていることになる。社会保障の負担を一定にするには、給付を4分の1削減するか、4割の負担増の必要がある