政治家にとって有益な陰謀論
――確かに「ネトウヨ」が勢力を増したのは自民党が政権の座から滑り落ち、民主党政権になった時代でした。
【秦】本書でも「なぜ反中・嫌韓的なネトウヨが『普通の日本人』と言いたがるのか」という説明で、「相手がこっちを嫌うなら、こっちだってもっと相手を嫌ってやる。そう思うのが普通の日本人の感覚のはずだ」という素朴な心理が働いているのではないかと解説しました。
――「ネトウヨ的」な話題で言えば、最近、自民党の杉田水脈議員の過去の発言が議論の的になりました。
【秦】陰謀論的言説と政治家の関係で言えば、陰謀論を言うインセンティブが最も高いのは政治家だと思っています。政治家による陰謀論の発信は、支持層を新たに広げることにはあまりつながりませんが、すでにいる支持者を固めるのには役に立つ。これも、与野党関係ありません。
――立憲民主党の原口一博議員が予算委員会などで「ディープステート(闇の政府)」に言及したり……。
【秦】しかも、日本では、危なっかしい政治家がいてもせいぜいツイッターの一部で取り上げるくらいで、デモや署名のような形で直接政治家に訴えることは少ない。つまり、選挙くらいしか政治家をジャッジする機会がないために、陰謀論を支持固めに使う政治家は、次の選挙までの間、議会やその他の場所で陰謀論を発信し続けることができてしまう。
さらには、当選回数を重ねている議員が陰謀論を口にすると、「あの人がそこまで言うのだから、実際に何かあるんだろうな」と思ってしまう人が一定数出てくるのも問題です。
政治家に対しては、ある種の模範的な市民、選良であるべきだという印象を持っている人は今なおいます。それに「少なくとも政治家には一定の良識がある」と仮定しなければ、そもそも代議制なんて成り立ちません。そうであるだけに、政治家発の陰謀論は一般人が発信するそれよりも明らかに悪質です。