勝訴した場合は「教育と介護福祉分野」へ投資する

しかし、判決は、「大昔にリスクとコストを負った」という前提理由で、「未来永劫」に「破格の廉価賃料」が「固定」されていることを是とすると判断しており、これが妥当か否か――そうした点が争われることになる。

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「実は、山梨県の富士急行に対する1927年1月29日付の当初貸付許可の第3項には、富士急行が所定の電気鉄道の敷設を完成しない場合は契約を解除できる、という旨の記載があるのですが、今日に至るまで富士急行は敷設していない。この主張も控訴審での取り扱いが注目ポイント」(同)

さらに注目すべきは、地方自治法で守られる県民の利益について、どういう司法判断が下されるかという点だろう。具体的には、年額で現状の賃料3億2500万円に対し、1審での県側の請求は20億円になるため、その差額は約16億円。この「県民の利益」が将来にわたり「未来永劫に認められない」という1審判決の妥当性にどういう判断が下されるのか。

ちなみに、長崎知事は新たな「県有財産」の使途として、県民生活の向上のために、教育と介護福祉分野に投資する、と方向性を示している。内訳は「少人数学級拡充施策」「介護施設待機者ゼロ施策」で、前者には年約16億円、後者には同6億円が必要と試算されている。

このうち少人数学級は県内ですでに小学1~2年生で実現しており、残る3~6年生の実現に年約10億円が見込まれており、前述の介護施策分の6億円と合わせ、増税などに頼らない新たな自主財源としての県有財産がそのまま充当でき、県民全体の生活向上が実現できるというわけだ。

控訴審ではどちらが勝つのか?

それだけに、控訴審の成り行きは県民にとっても重大事であり、すでに1審判決の報道などもあって注目度は高まっている。

その控訴審の見通しについて、地方自治法に詳しい弁護士が、

「そもそも、県有地を巡って自治体と企業が過去にさかのぼって契約の違法性を争い、損害賠償を求める訴訟は全国でも例がないため、そのまま適応できそうな判例そのものがないのですが」

と前置きし、こう解説する。

「地方自治法237条2項には『普通地方公共団体の財産は、条例又は議会の議決による場合でなければ、(中略)適正な対価なくしてこれを譲渡し、若しくは貸し付けてはならない』と定めてあり、これに違反して締結された契約は違法であり無効、という判例は複数ある。

従って、控訴審でもこの『適正な対価』が争点になるでしょう。1審判決では、富士急行が造成に際して相当のリスクとコストを負担しているのだから賃料計算を96年前の山林原野の価格を基礎にすることには合理性があり、契約は有効とした」