これに対して甲府地裁は、

「賃貸借契約は有効で、富士急行の行為に違法性はない」
「これまでに支払われた賃料が地方自治法で規定する『適正な対価』に当たらないとする県の主張は採用できない」

と判断し、県側の請求には「理由がない」として棄却したのである。言うなれば、ほとんど門前払いに等しい判決だった。

「最大の争点を突き詰めると、賃料が“実勢に応じた適正な価格か”という点。何しろ、県が算出した適正額で計算すると364億円もの巨額の“損害”を被っていたという主張ですから、いかに破格の廉価で賃貸されてきたかということ。20年ごとに契約は更新され、賃料も見直されていたとはいえ、その差額=損害はあまりにも莫大ばくだいです」(司法記者)

富士急行側は「当然の結果」

「もちろん、こんな契約を承認してきた過去歴代の知事や県の責任も大きいですが、重要なのは、当該地は県有地という県民の財産だということで、これはすなわち県民ひとりひとりの損害に当たるということ。つまり、地方自治法で守られているはずの県民の利益については一顧だにされなかったということです」(司法記者)

全面勝訴した富士急行側は、判決後に野田博喜常務らが記者会見を開いた。「当然の結果であると認識しており、主張が認められて深く安堵あんどしている」と胸をなでおろし、

「今回の判決は、山中湖村の県有地を連綿と開発してきた先人たちの苦労が司法に改めて認められたということだと考えている。今後とも山梨県の地元企業として地域経済の発展に寄与していきたい」

とコメントした。

一方の県側は冒頭で触れた通り控訴したため、第2ラウンドでは「県vs.地元財閥」という構図のなかで「借地法vs.地方自治法」の真っ向対決がいよいよ本格化することになる。

山中湖から見た富士山
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中央政界に足場を築いた“堀内王国”の影響力

それにしても、富士急行側の主張にある通り、なぜ山梨県側は長崎知事が就任するまで値上げ請求をしてこなかったのか。

「それは、富士急行という会社が山梨県内では老舗の財閥企業として絶大な政治力、影響力を持っていたから」と解説するのは地元の財界関係者。

「現社長の堀内光一郎氏は創業家の4代目ですが、先代の父・光雄氏は労働大臣、通産大臣、自民党総務会長などを歴任し、自身の派閥も率いた政界の大物。先先代で祖父の一雄氏、そして創業者で曽祖父の良平氏も代議士として中央政界に足場を築いていた人物。

つまり、富士急行そのものの業容拡大にはもちろん、地元経済の発展にも歴代が中央政界とのつながりで巨大な影響力を及ぼしてきた“堀内王国”。県にとっては税収の面も含めて大切な存在であり、いわば持ちつ持たれつの関係だったのでしょう」

さらに、こんな指摘も。