よくわからないうちに「OK」と答えた

米国のA&Mレコードからは、ニール・ラーセンという都会的なキーボード・プレイヤーの出演が決まった。

アルファ・フュージョン・フェスティバルの当日、僕はニール・ラーセンのプロデューサーであるトミー・リピューマの滞在するホテルオークラへ、上等なシャンパンを幾本か持っていき、しこたま飲ませた。

写真=iStock.com/DNY59
上等なシャンパンを幾本か持っていき、しこたま飲ませた(※写真はイメージです)

トミー・リピューマはAORの大物プロデューサーであり、ニール・ラーセンのほかに、『ブリージン』で知られるジョージ・ベンソンやマイケル・フランクスといったアーティストの作品を手がけている。

半分酩酊状態で紀伊国屋ホールに到着したトミー・リピューマは、YMOの演奏が始まると、ノリノリだ。

「これはユニークで面白い! アメリカでリースしよう!」なんて口走っている。

おっ、と思ってさっそく村井邦彦に連絡。村井はすぐにA&Mの会長であるジェリー・モスに電話して、「日本でトミーがこう言ってるから、アメリカでのリリース、よろしく頼むよ!」と勢いよく伝え、ジェリー・モスはなんだかよくわからないうちに「OK」と答えたらしい。

強引な交渉だな、とばかり思われてもいけないので、出来事の背景にあるA&Mレコードとの信頼関係について記しておこう。

アルファレコード以前に代理店としてA&Mと販売契約していたキングレコードは、人気アーティストのカーペンターズのほかにはレコードのヒットがなかった。

そのキングレコードのあとにアルファレコードがディストリビューターになってからは、A&Mの作品が本邦で次々にヒットすることになる。

A&Mレコードの会長であるハーブ・アルパートの「ライズ」というトランペット作品は、当時博報堂の敏腕ADであった村口伸一のアイデアで、キリン・シーグラム・ロバートブラウンのテレビコマーシャルの音楽に採用され、音楽が鳴るなか、コップは揺れていないのに中のウイスキーだけがゆっくりと優雅に揺れている斬新な映像で大成功した。

また、クインシー・ジョーンズの「愛のコリーダ」という楽曲は、ディスコへのプロモーションで大ヒットさせた。

後日アメリカのA&M本社に赴いたとき、クインシー・ジョーンズとハーブ・アルパートから「日本のアルファと契約してよかった。なかなかやるな!」と大いに感謝された。

こういう経緯があって村井は強気の交渉を持ちかけたのだ。