中南米でも多くの人々がスマホを持ち、ネットに接続する生活が当たり前となっている。だからといって、人々のネットを使った金融リテラシーがすぐに向上するわけではない。結論を出すにはまだ早いかもしれないが、高らかに号令を鳴らして一年が経過した成果がこれでは、今後もビットコインの利用が金融包摂を促すとは考えにくい。
ビットコインシティーの建設は進まず
ブケレ大統領はビットコインを法定通貨に定めた直後の2021年11月、ビットコインシティーと呼ばれる戦略都市を造り上げると高らかに宣言した。ビットコインの採掘業者と投資家に対して免税を行い、居住・商業空間を建設する。多量の電力を必要するビットコインの採掘には、東部のコンチャグア火山による地熱発電を利用するという一大構想だった。
とはいえ、この構想もまったく進展していないようだ。ビットコインの価格が下落し、投資家の熱も冷めている。当然、ビットコインシティーの建設に必要な資金など集まらない。ブケレ大統領らエルサルバドル政府は計画が長期的なものであることを強調するが、ビットコインシティーの現況は、まさに「捕らぬ狸の皮算用」を体現するものだ。
そもそも、通貨の安定は経済発展の必要条件である。通貨が安定しなければ金利も低下せず、投資が促されないため、経済は発展しない。通貨の安定は、エルサルバドルのような新興国が腰を据えて取り組むべき政策課題であるにもかかわらず、ブケレ大統領はそれを放棄し、投機性が極めて強い暗号資産に活路を見出そうとしたわけだ。
ビットコイン化は大失敗、残ったのは含み損だけ…
当初から多くの識者がこの路線に対して警鐘を鳴らしていたが、案の定、ビットコイン化は失敗した。国民はブケレ大統領の失政で、不要な含み損を被ったわけだ。ブケレ大統領はその責任を取るどころか、憲法が禁じているにもかかわらず2024年の大統領選へ出馬を表明し、強権色を強めている。
そうしたブケレ大統領が推し進めてきた政策がビットコイン化だったことを我々は記憶にとどめておくべきだろう。
日本にも、ビットコインに代表される暗号資産を「高値掴み」で購入した投資家が少なくないはずだ。余裕資金を運用するならともかく、暗号資産が安定的な資産形成・資産運用の対象となるには、まだかなりの時間がかかることを肝に銘じるべきだろう。
(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)