台湾拠点のTSMCがついに米国進出へ

世界の半導体産業の構図が大きく変わっている。12月6日、世界最大のファウンドリ(半導体の受託製造に特化した企業)である、台湾積体電路製造(TSMC)は米アリゾナ州に2つ目の工場(ファブ)を建設すると発表した。そこで生産するのは回路の線幅が3ナノメートル(ナノは10億分の1)の次世代チップだ。これまで、TSMCは最先端の半導体製造拠点を台湾国内に集中し、海外に生産拠点を移転することはなかった。その意味では、今回の移転は画期的決断といえるだろう。

写真=時事通信フォト
半導体受託製造で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)とソニーグループなどが共同で建設を進めている半導体製造工場=2022年10月26日、熊本県菊陽町

ここへきて米国は、経済安全保障の観点からも、アジア地域に集中している半導体製造拠点を、米国内に回帰させることに本腰を入れ始めた。その背景の一つに、台湾問題の緊迫感があることは言をたない。経済、社会、安全保障などの面で極めて重要な、“産業のコメ”と呼ばれてきた半導体の重要性は急速に高まる。米国は覇権国としての地位を守るため、世界の半導体産業をリードする力を高める必要がある。

その意味では、最先端のチップ製造をリードするTSMCの誘致は不可欠だ。今後、台湾や韓国企業の誘致、および国内での半導体製造能力向上をめぐる主要国の競争は激化するだろう。生き残りをかけて、わが国の半導体関連企業はこれまで以上に“強み”を磨き、世界から必要とされる立場を高めなければならない。

半導体需要は低下する見通しが強いが…

世界各国にとって、戦略物資としての半導体の重要性が急速に高まっている。足許では、メモリを中心に既存の半導体市場では在庫調整が進んでいるものの、スマートフォンなどのIT関連機器の需要減少は大きい。また、連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)はインフレ鎮静化のために金融を引き締めなければならない。

政策金利の上昇は企業の設備投資や家計の消費にマイナスに働く。それも半導体の需要を一時的に低下させる。メモリを中心に在庫調整は2023年の上期頃まで続きそうだ。そうした見方から2022年の春先以降、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)指数は下落した。

しかし、最先端の半導体の製造に関しては状況が大きく異なる。国家レベルで企業誘致や新しい製造技術開発に向けた取り組みが、急速に強化されているのだ。米国、欧州委員会、わが国、中国などが半導体産業の育成と国際競争力強化に集中している。