イギリスのインフレは世界的なエネルギー価格の高騰が原因だ、という指摘がある。しかし、その説ではイギリスのインフレ率がEU諸国より突出している理由を説明できない。イギリスは北海油田を有しており、エネルギー自給率は約7割と高い。ロシアからの天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」が爆破されて困惑しているドイツは約3〜4割、フランスは約5割だから、EU諸国よりむしろ国際的な価格高騰の影響は小さいはずだ。
イギリスのインフレは、世界的なエネルギー価格高騰が主な原因ではない。事実、北海油田を二分しているノルウェーのインフレ率が5%を下回っているので、イギリスでは石油会社への監視が足りない、という仮説も成り立つ。これもスナクの政策課題だ。
イギリスのインフレ問題を解決するには、EUへのリエントリー(再加盟)という抜本的治療しかない。しかし、スナク首相が今回のインフレに対して本質的な洞察ができているのかどうかは疑問である。スナク首相はゴールドマン・サックスやヘッジファンドの出身で、お金儲けには聡い。おそらく得意の金融、そして財政の枠組みでしかインフレ対策を考えていないだろう。少なくても就任前後、スナク首相がブレグジットの影響やEUへのリエントリーについて発言したことはない。
仮に頭の片隅にあったとしても、現在のイギリスでリエントリー政策を打ち出すのは無理だろう。ブレグジットは国論を二分する論争となった。2016年の国民投票で決した後もEUとの交渉で揉め、2年前に完了したばかり。国民にはブレグジット疲れがあり、正しい選択だったのかを検証することすらはばかられる空気がある。EU復帰が救国の道だと気づいた政治家がいたとしても、当面は口をつぐんでいるだろう。
2023年からUK崩壊が始まる
しかし、ブレグジット疲れが癒えるのを待っていていいものか。イギリスはスコットランド独立という火種があるからだ。
スコットランドは14年に独立を問う住民投票を行った。反対多数で否決されたが、スコットランド自治政府のニコラ・スタージョン第一首相はあきらめておらず、2回目の住民投票を23年10月に実施する構えだ。
スナク首相は党首選時に住民投票に否定的な考えを示していたが、ジョンソン元首相ほど頑なではないかもしれない。もし住民投票が行われたら、次は賛成が上回る可能性が高い。
スコットランドが首尾よく独立を果たしたらどうなるのか。実は前回の住民投票で独立派が負けたのは、ブレグジット前であることが一因だった。スタージョン首相は独立後にEUに加盟を申請するつもりだったが、当時まだEUメンバーだったイギリスが反対すれば承認されない。EUに加盟できなければ独立しても国家運営が立ち行かなくなり、それを恐れた人が反対に回ったのだ。