健保同士でいがみ合っている場合ではない

そして国保だけでなく、ほかの健康保険組合も厳しい財政状況が続いている。団塊世代(1947年~49年生まれ)が75歳になる2025年には医療費が一層膨らむ見通しだが、財源の半分近くを占める現役世代の人口は減少しているためだ。

長友氏は「現状、国からのお金を医療保険同士で奪い合う形になっている」と指摘する。

「それは医療保険に対する国庫負担を抑えているからです。会社員が加入する組合健保や協会けんぽも、後期高齢者医療保険制度へ支援し、そして65歳以上が加入する国保にも出資することになったため、しんどくなっています。組合健保や協会けんぽにすれば、なぜ後期高齢者や国保を支援しなければいけないんだ、おかげで赤字じゃないかと思うでしょう。もちろん国保側も厳しい。健保同士でいがみ合うのではなく、医療保険全体に対する国庫負担を求めていくべきです」

「1983年まで約6割を占めていた国庫支出金が年々低下し、現在は二十数%。このままでは国だけが支出を抑制でき、国民の負担が増え、ますます消費購買力が落ちる。こうした状況で保険料負担を引き上げるというのは理解に苦しみます。1980年代の水準に国庫負担を戻していけば、保険料負担、自治体の負担はかなり軽減されるでしょう」

筆者撮影
筆者は、健保を移行する際、4カ月分29万円の一括納付を求められたため、分割納付を申請した。国保料はあまりに高い。

「保険診療のほうが医療費が増える」というのは幻想

「国の負担増」には厳しい声もある。前回、私が「国民健康保険料の真実」で同様の主張をした際も、批判のご指摘をいただいた。主な指摘は、「国の負担を増やすより、皆保険制度をやめるべきだ」「保険適用の範囲を狭め、民間保険のように医療機関を受診する人ほど保険料を上げるべき」というものだ。その主張もわからなくはない。私も、なぜ1年に1回程度しか医療機関を受診しない自分が、月に8万~9万円も支払わなければならないのか、と思う。

しかし、保険の範囲を狭めれば、医療費がさらに増えるという悪循環に陥る恐れがある。長友氏は、こう補足する。

「アメリカの医療費はものすごく高いでしょう。それは日本における診療報酬がなく、富裕層に対する“医者の言い値”だからです。ある治療を医者が10万円といえば10万円になる。風邪薬や湿布薬は保険診療から外すべきだ、とみなさん言いますが、自由診療が増えるほど医療費の総額が増えるのです。公的医療保険があり診療報酬制度があるから、医療費がコントロールされている。保険診療のほうが医療費が増えるというのは幻想です。国として大部分の庶民に対して医療提供しないわけにはいかないので、保険診療をゼロにはできません。となると、自由診療の部分におされて全体の医療費が上がってしまうのです」