加害教師は異動もせず学校に残り続けていた

過呼吸が起きるようになったのは、わいせつ行為が発覚する数カ月前。その頃からボディタッチが多くなってきていた。同級生の証言として、「もともと日和は気さくなタイプ。先生のお気に入り」。日和さんも「お父さんみたい」と話していた。

渋井哲也『ルポ自殺 生きづらさの先にあるのか』(河出新書)

「お父さんのように慕っていた先生だったのですが、日和が過呼吸を起こすようになったのは、ボディタッチしか考えられないです」(同)

資料によれば、同教師は日和さんがパニック発作を起こすことを心配し、「何かあったら連絡して」とメールアドレスを教えた。教師は週3~4回連絡をしていた。また、パニック発作を起こしたとき、教師は日和さんを理科準備室に呼び出し、2人だけの状態になったことが3回あった。落ち着かせるために、手を握る、背中をさすることもあった。担任に報告はあったというが、生徒会室でも、日和さんを膝の上に乗せて足をさすっているところも目撃され、他の女子生徒に不審がられていた。

ただ、この事件があっても、日和さんは「内申点が下がる」と言い、受験もあるために通学した。帰宅すると、泣き続けることもあった。そんなとき、さつきさんは後ろから抱きしめた。

「加害教師は異動もせずに学校にいました。娘は、その教師に会わないように、始業のチャイムが鳴ると、走って移動教室に向かっていたことを聞きました。娘はだんだん痩せていきました。体重も40キロ台から30キロ台と、減っていきました。自殺願望も強く、ベランダから何度も飛び降りようとしたこともありました」(さつきさん)

「君のせいで、僕の昇進がなくなったんだ!」

その後、加害教師と校長、教頭、養護教諭と話し合いがされた。その場で校長は同教師に対し「君のせいで、僕の昇進がなくなったんだ!」と言った。さつきさんは「他言しないように言ったのは、校長の保身だったのでは?」と感じ、怒りが校長にも向いた。

このとき、こんなやりとりもあった。

【さつきさん】「どうしてこんなこと?」
【加害教師】「自分の娘が、日和さんと同じ年齢。同じくらい可愛かった」
【さつきさん】「恋愛感情は?」
【加害教師】「ないです」

「ますます納得いきませんでした」とさつきさんは振り返る。市教委からも「訴えてください。訴えられてもしかたがないことをしてしまった」と言われ、謝罪された。

教師による性的な被害に関しては、「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」が2021年6月に施行された。教職員による児童生徒との性交等を「性暴力」と位置づけ、性暴力が心理的外傷を及ぼすとして、刑事罰にならないとしても、禁止行為とした。行った場合、免許を失効することがあり得るようになった。失効した者のデータベースも整備することになる(※1)

(※1)「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律の公布について」(通知)2021年6月11日

 

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