日本コンテンツの輸入に潜むリスク
では、日本のコンテンツを輸入する際のデメリットとは何か。
日本で作られた作品を翻訳だけして他国で配信する場合、他国の文化や政治に対する間違った認識から「炎上」を生むこともある。例えばアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』や『鬼滅の刃』が海外で配信された際、イスラム教の経典をBGMに使用していたことが判明し、「不適切な音声の使用だ」としてイスラム諸国の視聴者から大バッシングを食らったことは有名だ。このような失敗談は世界中で似たような話が存在する。
また、日本語を現地の言葉に翻訳する作業も一筋縄ではいかない。現地に適した形への言語的翻訳や文化的翻訳、固有名詞を如何に現地に合わせるか、英語と日本語を残すべき部分などを考慮する必要がある。
例えば、近年ではすっかり市民権を得た「ツンデレ」という言葉は、さまざまな媒体でさまざまな翻訳がみられた後に、最終的には「傲嬌」(傲慢ながら可愛らしい)に落ち着いた。それほどコンテンツの固有名詞や新語の翻訳は難しいといえる。
さらにアニメのローカライズとなるとさらに複雑で、日本語は英語や中国語に比べ、同じ意味でも文章が長くなる傾向にある。日本語でアフレコされたアニメを英語や中国語に吹き替えした場合、口パクに合わせるとなると、必要のない単語や擬態語、擬音語を入れなければならないことがある。元々の日本人声優による声の雰囲気と異なってしまうことも見る側の違和感につながることがある。
即断力を求める中国、いつまで経っても遅い日本
コンテンツ産業の商習慣の複雑さも海外にとっては悩みの種だ。漫画が原作のアニメ一つ取っても、原作者から出版社、アニメ制作会社、配給会社までさまざまな権利者がおり、著作権も一般的な企業から見ると難解である。そんな中、スピード感、即断力を求める中国サイドに日本側が付いていけないのを今まで数多く見てきた。
例えばアニメ・コミックのゲーム化の日本コンテンツホルダー(版元)による監修作業だ。たった一言のセリフやイラストの監修に1カ月と掛かることも多い。これは決して日本側のレスポンスが遅いわけではなく、2010年代は海外の使用を許諾された側(ライセンシー)が現地で売れることのみを考えた無茶なデザインやアイデアがあったためだ。
だが、リテラシーが成熟した現在においては、ライセンシー側も今ではかなり日本原作に忠実なものを提示している。それでも、日本の対応の遅さは一向に改善されていない。日本の版元側の監修人員が足りてないという話も聞く。
これらの問題は、クリエイターを守る、企業の利益を守るというよりも、自身の成熟しすぎたシステムに振り回されている可能性がある。このままの状態が続けば、日本の人気作品を手軽に海外に届けるのは難しく、海外の事業者も「自国で自作した方が早い」と思い始めるのも当然だろう。