「どうしてみんなは怒るの? どうしてぼくをたたくの?」

オードリーは、たまらず、母にこううったえました。

「ママは、人はおたがいに長所をほめあわなければいけないって、いうよね。ぼくだって、なわとびを百回とべる子がいたら、ほんとうにすごいと思う。足が速い人のことも、がんばれって、応援している。なのに、ぼくが算数が得意で、国語の問題を早く答えると、どうしてみんなは怒るの? どうしてぼくをたたくの?」

夏休みになると、オードリーの状態はどんどん不安定になりはじめました。小学3年生への進級と、新しいクラスがどうなるかが、不安でしかたがなかったのです。

オードリーは指の爪をかむようになりました。夏休み中の最後の登校日には、朝の五時に起きたものの、遅刻寸前の8時まで動こうとはしませんでした。そして、「今日はクラス決めの日だ。ぼくは、どの教師の手中に落ちるんだ?」と、ひとりごとをくりかえしました。

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さいわい、その日はクラス決めはありませんでしたが、オードリーはもう耐えられなかったのでしょう。母にむかっていいました。

「ママ、休学の手続きをしてくれない?」

母はすぐに手続きはせず、まずギフテッド・クラスの教師に相談をしました。それを知ったオードリーは、こんどは母にこんな質問を次々と投げかけました。

「ママ、体罰は犯罪じゃないの? なのに、なぜうちの学校の先生たちはそんなことをするの? もし新しい先生がぼくをたたこうとしたら、逃げてもいい? 先生が追いかけてきたら、どうしたらいいの?」

そして、小学三年生の初日、新しいクラスが決まって帰宅したオードリーは、李にこう告げます。

「ママ、ぼくは終わりだ」

体罰はなくなったが、同級生からの暴力が始まった

成績のいいオードリーは、また班長に任命されたのですが、新しい一般クラスの担任にこういわれたのだそうです。ふつうの子が何か失敗したときは一回たたくが、班長は二回たたく、と。

「だからママ、ぼくはもう学校には行かない」

驚いた母は、次の日、オードリーにつきそって登校すると、担任に事情を話しました。ところが、それは逆効果でした。先生はたたくことはなくなりましたが、オードリーはそのことでかえって「特権的存在」になってしまったからです。

「罰として立たされることも、そうじをさせられることもないけれど、クラスのみんなはぼくをうらんで、授業が終わるとなぐりに来るんだ」

なぐられる理由はほかにもありました。

たとえば班長は、決まりを守らなかった生徒の名前を黒板に書いておくようにと、先生に命じられていました。名前を書かれた生徒たちは、あとで先生から罰を与えられます。つまり、まじめに班長の仕事をすればするほど、オードリーは生徒たちにうらまれるというわけです。

オードリーは、どんどん追いこまれていきました。学校に行くのをいやがるようになり、夜は悪夢にうなされ、朝もすぐに起きられなくなっていました。オードリーは必死にうったえました。

「パパ、ママ。ぼく、学校に行くのがつらいよ。これは命の危機なんだよ」