ドラッカーは、30歳のとき処女作『「経済人」の終わり』を出版してから、生涯で30冊以上の本や論文を発表し、現在でも世界中に影響を与えている。
ドラッカーの著書は、なぜこれほどの時を経てもなお、人々に読み継がれているのか。ひとつには、普遍的な原理原則について述べているからと言える。現在、書店にある流行の経営本は、「これさえやれば収入が増えますよ」とか「こういう手法を行えば効率がよくなりますよ」という底の浅い議論に終始している。しかし、ドラッカーの本は違う。読めば読むほどに経営の本質への理解が深まるのだ。
現代の日本で、売り上げや個人の所得が上向いていかない原因はいくつかある。ひとつには、自社や自分の強みを忘れてしまっていることだ。会社の商品に満足している顧客は、わざわざ満足したと会社に伝えることはしないだろう。従って、耳に入ってくるのはクレームばかり。そうなると、短所ばかりが気になってしまうが、短所を必死でカバーしようとして、自分の強みを消してしまう企業が実に多い。冷静に自分たちの強みを再確認すべきだ。
もうひとつ、売り上げが伸びない原因として考えられるのが、ネット社会になったことで一般的な知識(ノウハウ)が無料になったことが挙げられる。以前は難しかったノウハウの伝播が、インターネットの普及によって急速に広まったために、その価値はなくなりつつあるのだ。
そうした中で利益を上げるには、希少なノウハウに特化せざるをえない。クリス・アンダーソンは『FREE』という著書の中で、「潤沢な知識は安くなりたがる。希少な知識は高価になりたがる」と言っている。つまり儲からない会社は、どこの会社でもできるようなものを作っていて、他社に真似できない希少なノウハウを持っていない場合が多いのだ。
ドラッカーは、「商品やサービスとは、企業が持っているノウハウと、お客様が持っている購買力の交換の媒体だ」と言っている。ノウハウを形にしたものが商品だが、そこに差別化された魅力がなければ、商品としての価値は低くならざるをえない。
日本の製造業を考えてみた場合、かつては部品を組み立てるノウハウを持っていることに希少価値があったが、今では組み立てはパッケージ化されたため、誰もが持てるノウハウとなった。
すると、商品を大量に製造するには、人件費の高いところよりも、安いところで作らなければ利益が上がらない。