派遣労働が最も長い仕事になった

企業に勤めている知人から、助けて欲しいと連絡があった。2001年のことだった。

「派遣の女性が急に辞めてしまい、急ぎの報告書があるから、うちの仕事に変わる気はない? 手伝って欲しいんだ」

願いに応じて、仕事先を変えた。それだけのことだった。本来なら、その企業に直接雇用されるべきなのに、派遣女性の代わりなので、便宜的にその女性の派遣元企業に登録して、知人の企業=派遣先企業に勤めにいくという形となった。

「給料は派遣元企業から振り込まれるわけですから、いくら派遣先企業の人からの声かけで勤めたにしても、他の派遣の人と一緒。こうして、ずっと派遣労働者人生を送るわけです」

派遣とはいえ、照子さんは同じ企業に16年8カ月勤務することとなった。

「本来、派遣って短期仕事だから、長続きする性質のものではない。でも皮肉にも、私の場合はその派遣こそが一番、長続きできた安定雇用だったんです」

就いたのは、事務職。初めての仕事だったが、事務とは何てラクなのかと思った。営業のようにノルマもなければ、移ろいやすい人の心を相手にするものでもない。

「女性が就きやすい仕事といえば、介護とか保育とかの接遇サービスですが、これらはみんな感情労働です。人を相手にして、しかも自分の感情を抑えて、いかに相手をもてなすかが求められる、大変な仕事です。女性の仕事の中で、感情労働が少ないのが事務、だから女性は、事務の仕事をしたがるんです」

派遣労働者の給与は、派遣元企業に3割ほど取られる仕組みになっている。加入が義務化されている社会保険は労使で折半、40歳以上だと介護保険が引かれ、さらに雇用保険や「諸経費」という実体のわからないものも引かれ、手取りは20万円程度。派遣に交通費はない。ちなみに、2020年4月の法改正で交通費や賞与などは支給しなければならなくなった。

「勤務体系は、正社員と一緒。それなのに毎月、正社員がもらえている住宅手当、扶養家族手当などの諸手当、夏冬のボーナスはない。私のように約17年も勤めたのに、退職金もなかった。派遣とは、そういうことなのです」