白内障手術を早く受けないと手遅れになる患者が多い
特に水晶体は、爪や髪の毛と同じ外胚葉系由来の細胞なので、生涯成長し、大きくなります。ですから、70歳以上の方では、白内障手術をしないで放置していると、白内障が成長して虹彩を上に持ち上げるために、水の流れる場所である隅角が狭くなります(図表6)。
このため眼圧が上がり、緑内障となるのです。
この結果、白内障で見えなくなる前に、緑内障で目がだめになる方が多くいます。外来でよく経験するのですが、患者にすれば、「そろそろ見えなくなってきたので、白内障手術をしてほしい」と当院を訪れます。
しかし、私が診ると、患者の目が緑内障の末期である、という例が多くあるのです。緑内障治療のことも考えると、白内障も早く見つけて、早めの白内障手術を施行したほうが良いのです。
この際に、視野が狭くなっているならば、同じ軸上で全ての距離がよく見えるような「多焦点レンズ」を選ぶのが最良です。
視野が狭くなっているので、単焦点レンズを入れた後に遠近両用メガネなど作っても、視野が欠けてしまい、遠近両用メガネでは狭い視野となってメガネの効果がなくなります。多焦点レンズであれば、視野が狭くなっても、残った中心部の視野で、ほぼ全ての距離がよく見えます。
7割の患者は正常値の範囲内なのに…
日本においても岐阜県多治見市での疫学調査により、緑内障患者のなんと7割が、正常眼圧とされる10~20mmHgの範囲であったとのことです。
つまり、眼圧が高くて視神経障害が起きるのは3割で、残りの7割の緑内障は、主に眼圧ではない他の原因で起きていると、日本でも研究者は示唆しているのです。
ところが、緑内障治療現場では、眼圧を何とか下げようとするだけで、他の要素の治療など考えもしません。さらに末期となった患者にさえ、点眼薬による不十分な眼圧降下を行い、視野がどんどん欠けていくのに、ただ待っているだけという例も多いのです。
もっといえば、分からないことには蓋をしたまま、「緑内障治療といえば、とりあえず眼圧を下げる点眼薬を出しておき、失明に至るまでの期間を長くしていればいい」という状況なのが、日本の現状なのです。
緑内障とは、シンプルにいえば、「様々な原因で起こる視神経障害を含む病気の集まりである症候群」であるということです。つまり、緑内障を単純に考えてはいけないということです。
単に「緑内障にどのような点眼薬を与えるか」といった議論や本も見かけますが、そんな単純化をすることが、日本では緑内障の治療がまともにできない原因となっているのではないでしょうか。