ただ、インフレによってEVシフトにブレーキがかかるかといえば、むしろ逆だという。

「ウクライナ問題で世界的にエネルギー供給の問題が浮上したことで、いよいよ『脱炭素』の動きが加速するでしょう」

そう語るのは前述の村沢義久氏だ。

消極的な日本車メーカーも本腰を入れる時が来た

インフレによる車両価格上昇はあったものの、いま世界でEV販売が急増していることに変わりはない。

村沢義久『日本車敗北 「EV戦争」の衝撃』(プレジデント社)

コロナ禍で世界のサプライチェーンが混乱し、トヨタをはじめとするガソリン車メーカーでは減産などの対応に迫られた。だが、テスラをはじめとするEVメーカーには大きな影響がなく、順調に販売を伸ばしてきた。EVはガソリン車に比べて部品点数が少ないため、サプライチェーンの混乱の影響が比較的軽微で済んだことが功を奏した格好だ。

世界における電動車(EV+PHV)販売は2021年に600万台を突破し、いまや新車販売の約6%を占めている。これが、2022年には900万台、9%になると予想されている。

EV化に後ろ向きと言われていた日本車メーカーも、EVに本腰を入れざるを得ない状況になってきた。

日本にとって水素は「亡国の技術」

ただ、本当にEV化しか選択肢はないのだろうか。

岸田首相は4月9日、脱炭素化のカギとして、水素社会の構築を目指すという考えを示した。政府が「水素」に注目する以上、自動車メーカーとしては「バッテリーEV」のみならず、「水素」にも取り組む必要があるのではないか。

そもそも、日本では「水素」の研究・開発が盛んだったはずだ。テスラに先行を許している「バッテリーEV」の世界で不利な競争を強いられるより、技術的に先行する分野で勝負するほうが良さそうにも思える。

トヨタは水素燃料電池車(FCV)である「MIRAI」をすでに発売しているが、EVについてはこれからの取り組みだ。そうした実績のある分野を捨ててしまうのは、もったいないのではないか。

だが、村沢義久氏によると、この考え方は根本的に間違っているという。

「水素技術は『亡国の技術』だと、私はさまざまな場において指摘し続けてきました。 また、そう考えているのは私だけではありません。テスラのイーロン・マスク氏も、水素技術にはまったく期待していません。『(水素)燃料電池はバカ電池』と切り捨ててさえいます。

水素技術が本格的に普及する可能性は非常に低いのです。そのわりに、技術開発には巨額の費用がかかります。日本の自動車メーカーは、経営戦略から早く水素技術を外すべきです」(村沢氏)