「水素はクリーンで無尽蔵」の間違い

日本では「水素は無尽蔵なエネルギー資源」と説明されることがあるが、これは完全に間違いだと村沢氏は言う。

無尽蔵に存在するのは、水素の酸化物である水(H2O)だ。単体の水素(H2)は自然界にはほとんど存在していない。その点を取っても、水素は非常に利用しにくいエネルギー源だと言う。

水素が自然界に存在しない以上、なんらかの方法によって作り出さなければならない。
その方法がまた問題だという。

「酸化物から酸素を分離し、有用な物質を得るプロセスを還元といいます。その1つの方法が水の電気分解です。

水(H2O)を電気分解すると、負極で還元作用が起こり、酸素(O2)が分離されて水素(H2)が得られます。この時に、膨大なエネルギーを浪費してしまうのです。

天然ガス(主成分はメタン:CH4)から水素を作る方法もあります。しかし、残念ながらその過程でCO2が発生してしまうので、クリーンなエネルギー源とは言えません」

天然ガスから水素を作るプロセスは、簡略化すると以下の化学式となる。

CH4+O2=2H2+CO2

この式から分かるように、水素をつくる過程で、天然ガスに含まれるCが全量CO2となって排出されてしまうのだ。

きれいな水がはねている
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コストパフォーマンスが最悪

水素燃料電池にはさらに別のデメリットがあると言う。

「得られた水素は1気圧のままです。しかし、1気圧では大きなエネルギーを得ることができません。

そこで、例えばトヨタのFCVでは、水素を700気圧にまで圧縮しています。ただ、この圧縮の過程で、たくさんのエネルギーを浪費してしまうのです。ざっくりした計算だと、水素の圧縮で浪費されるエネルギーは、FCV1台あたり、走行距離約100km分にもあたる、莫大なエネルギーです。水素燃料電池とは、それほど大きなエネルギーを無駄にする技術なのです」(村沢氏)

大きなロスがある水素燃料電池だが、もちろん発電においてもロスが生じる。

製品によって異なるが、そのエネルギー効率はおおむね60%。つまり、40%のエネルギーが無駄になってしまう。

すべてを総合すると、水の電気分解による場合には、元のエネルギーの70%以上が捨てられてしまうという。水素燃料電池車はそれほど非効率な車だと村沢氏は指摘する。

一方、EV(通常バッテリー車)のエネルギー損失は実用上の充放電合わせて10%程度。効率の面での勝敗は明らかだ。