多額の損害賠償や慰謝料を患者側が請求できる医療ミスとしては、手術や投薬の間違いなどが一般的なイメージだ。加えて、健康診断のように保健福祉的な領域でも、その落ち度に関して法的な責任を問える場面があるというわけだ。
たとえば、健診の後に、ガンなど重大な病気にかかり、大手術を受けて命は助かった場合を考えてみよう。仮に健診が真っ当に行われていれば、ガンを早期発見でき、小さな手術で済んだはずであることが証明できたのなら、その差額や精神的苦痛を損害賠償として請求できる。
しかし、たとえば不幸にして亡くなってしまった場合。遺族が損害賠償を請求しても、症状の進行が早い肺ガンなどの疾病では、「仮に見落としがなかったとしても、手遅れでいずれ亡くなっていたでしょう」と判断されることもありうる。その場合は見落としと死亡の間に因果関係がなくなるため、死亡についての法的責任は問えない。
このように、実際に損害賠償が認められるかどうかは、個別のケースによるということになる。医療訴訟は専門的で敷居の高い分野である。健診のミスを指摘するには、別の医師による証言が必要だが、まるで同業者を売るかのような証言には多くの医師が躊躇することもあり、協力を得るのは簡単ではない。このような医療事故に遭った場合は、医療裁判に関する経験や人脈が豊富な弁護士を頼るべきだろう。