そのため、どんな小さな金額であっても、せめて修正申告だけは取ろうとします(国税庁が公表している直近のデータでは、税務調査に入った先の約8割が、何らかの修正申告をしています)。
コスパ重視…短い時間で修正申告を出させる
また、税務調査したものの、追徴税額が少なく、しかも、納税者ともめて時間がかかってしまった――。これも、最悪の状況といえます。
もし、納税者ともめて裁判になってしまうと、膨大な労力を裁判に割かねばなりません。こうなると、他の税務調査はストップしてしまいます。
したがって、税務署員は、1件当たりの調査にあまり時間をかけず、件数をこなしながら、効率よく修正申告をさせ、追徴税額を積み上げていく、という工夫が求められるのです。
簡単にいってしまえば、「コスパ重視」なわけです。そのため、いったん税務調査に入れば、修正申告をなるべく早く取るために、あの手この手を使って経営者を説得しようとします。この説得の過程で、しばしばトラブルが発生するのです。
きちんとした証拠を示して、説得をすれば何も問題ありません。しかし、ときには、納税者や税理士の税制に対する無知につけこんで、ウソの説明をすることがあります。
また、結果を急ぐあまりに、このまま調査が長引くと、その会社の取引先に悪影響が及ぶことをほのめかすこともあります。それは、「脅し」といってもかまわないものです。
納税者を惑わす「ウソ」と「脅し」のテクニック
税務署員がウソをついたり、脅しをかけたりするなんて、にわかに信じられないという人も多いでしょう。ですが、これは真実なのです。
たとえば、次のようなやりとりも、それほど珍しいことではありません。
【調査員】社長、この領収書は、経費の二重計上になっているんですよ。この経費って、クレジットカードで支払われていますよね?
【経営者】はい。
【調査員】それで、クレジットカードの明細書で、また別の日に経費処理がされているんですよ。ほら、ココ。
【経営者】いやー、そうでした。すいません、うっかりしていました。
【調査員】それ、本当ですか? 別の領収書でも、二重計上をやっていますよね?
【経営者】本当に単純なミスで、お恥ずかしい……。
【調査員】これね、ミスで済ませられる金額じゃないですよね。これくらいの額になってくると、わざとやったとしか思えないんですよ、社長。
【経営者】いえ、わざとということはありません。
【調査員】みなさん、そういうんですよね。これね、金額が金額なだけに、私も見過ごすことはできないんです。これは、重加算税の対象になってしまいます。
【経営者】本当に、故意じゃないんですよ!
【調査員】重加算税ということで、承諾していただけませんか?
【経営者】……………………。
【調査員】もし、承諾していただけないということであれば、次は「査察」が来るかもしれませんよ。それでもいいですか? 新聞やニュースに出ちゃう可能性もありますけど。
【経営者】査察だけは勘弁してください。わかりました、重加算税を払います。
実際にこのようなやりとりをしたことがある人にとっては、おそらく悪夢のような思い出になっていることでしょう。
このやりとりには、「ウソ」と「脅し」が含まれています。
「査察が来るぞ!」とは言わない
まず、査察は、事前に通告されることはありません。
査察とは、悪質な脱税を摘発することが目的の強制的な調査です。事前に通告してしまうと、脱税の証拠などは隠滅されてしまいます。そんなお人好しが査察に来るわけがないのです。
したがって、「査察が来るぞ!」というのはウソなのです。