その担当者は「そんなこともあったね。でも、とても熱心で頑張っていると思ったので、『他社の商品を動かすくらいの熱意がないと営業の仕事はできませんよね』と上司のIさんに言っといたよ」と答えたのだ。

面食らったHさんが、「じゃあ、お宅にIさんが謝罪にうかがったというのは?」と尋ねると、担当者からは「え、そんなこと一度もないよ。だいたい、あの人、何かトラブルがあっても、絶対謝らないから」という答えが返ってきた。

トラブルを解決したように装って信頼を得てきた

Hさんは愕然とした。元彼のJさんの話と合わせて考えると、Iさんは自分がトラブルを解決したかのように装って、Hさんの信頼を得ようとした可能性が高いからだ。その目的は何だったのかというと肉体関係、つまりカラダ目当てだったとしか思えない。自分がIさんにだまされ、もてあそばれていたと気づいたHさんは、はらわたが煮えくり返った。そこで、Iさんに「取引先からクレームがきたというのも、ストーカー容疑で訴えられるというのも、そのトラブルを解決したというのも、全部作り話だったんじゃないですか」と詰め寄った。だが、Iさんは「向こうが嘘をついているんだろ」と笑うだけで、取り合ってくれなかった。

詰め寄ると、毎朝叱責されるように

それだけでなく、売り上げを伸ばしていた取引先の担当からはずされて業績がガクンと落ちたため、HさんはIさんから毎朝叱責しっせきされるようになった。しかも、それまでHさんが担当していた優良な取引先は、女性の新入社員が担当することになり、彼女がIさんからほめられているのを見るたびに歯ぎしりしたくなるようだ。

片田珠美『他人をコントロールせずにはいられない人』(朝日新書)

そのせいか夜眠れず、食欲が低下して、出勤しようとすると吐き気や動悸どうきが出現するようになったので、内科を受診した。しかし、検査を受けても異常が見つからなかったため、私の外来を受診した。

Hさんは睡眠導入剤と抗不安薬を服用しながら何とか出勤しているものの、集中力が低下したせいで仕事上のミスが増えた。ミスが見つかるたびにIさんから叱責されており、「あなたのせいでしょ」と言い返したくなるが、じっとこらえているらしい。

昼間我慢している分、そのツケが夜に回ってくるのか、イライラしてどうしようもなくなり、抗不安薬を大量に飲んでしまったこともある。イライラの最大の原因は、20代という一番いい条件で婚活できるはずの時期をIさんのせいで無駄に過ごしたことに対する悔しさと怒りだという。