バレないようにこっそり進めたかった?

政府がこれほど大掛かりな計画をぶち上げた背景には、インバウンド事業を一刻も早く再開させたいという思惑がある。インバウンド客が日本で使う出費は、マクロ経済の世界では「純輸出」と同じ効果があるとされ、ひいては経済成長に直接結びつくため、政府としてもしっかり後押ししたい分野だ。そんな事情もあって、水際措置の段階的な見直しを発表した11月5日以降、団体観光客の入国再開に向けて検討を進めていた。

しかし、政府はこのツアーを事前に周知することもなければ、大手マスコミも詳しい内容を報じたところはなかった。あるとすれば、オミクロン株による入国制限を受けて「モニターツアー開催を当面見合わせる」とする観光庁の発表を短く報じただけ。まるで「バレないようにこっそり進めていた」ように見えるのは筆者だけだろうか。

筆者撮影
観光庁が配布したモニターツアー中止に対するおわび文

「もし感染が広がったら恨まれるのは確実」

旅行業界関係者のひとりは「観光業界は、とにかく一日も早く全国レベルでのGo Toトラベル再開を願っているがそれも進まない。そんな中で観光庁は『外国からツアー客が大勢来るから協力してくれ』などとは怖くて言えなかったのではないか」と指摘。外国からのヒトの流入を嫌がる国民が一定数いることもあり、「反対する声が一斉に上がることを恐れて、告知をできる限り減らしているのだろう」と分析している。

しかも、こんな事情もあったという。

「(各都道府県が地元向けに行っている)県民割も感染が再拡大したら即ストップとなる。万が一、海外からのモニター客を招いた自治体で感染が広がったら、観光事業者から恨まれることは確実だ。インバウンドの復活は願うものの、この段階でわざわざ海外案件に手を出すのはリスクが大きい」

ホテル業界は「ツアーの検証は避けられない」

当面の見送りが決まったモニターツアーだが、観光庁の担当者は再度の実施について、「年明け以降の国内外の感染状況や水際対策を踏まえ、外務省や厚生労働省などと相談して判断する」という。いずれはやる、という意欲が残っているようだ。

筆者が話を聞いたホテル経営者も、モニターツアーに「大賛成」だという。

「インバウンド客の受け入れ解禁前に、外国からの関係者を招いてテストした上で、『問題が起きなかった』という確証を政府が欲しがる気持ちはよく理解できる。ホテル業界としては、しっかり安全確保と事後追跡を行って成功させてほしい」と期待感をにじませる。

国民から反発を招く可能性については理解を示しつつも、「このままインバウンド事業がどんどん遅れると、立ちいかないホテルや旅館も出てくる。こうした検証は避けられない関門だ」と話した。