パンデミックは繰り返し起こるもの
例えば、奴隷制社会だった古代ローマ時代のアントニヌスのペスト(165-180年)では500万人が亡くなっているし、中世初めのユスティニアヌスのペスト(541-542年)では3000~5000万人が亡くなっている。記録に残る人類史上最悪のパンデミックは、封建制社会だった中世の黒死病(1347-1351年)である。黒死病により2億人が亡くなり、人類の人口が半減する大惨事になった。
黒死病は、コロナ禍はもちろん、4000万人~1億人近くが亡くなったスペイン風邪(1918-1919年)も比較にならない史上最悪のパンデミックだった。パンデミックにはならなくても、近代以前の社会では、その地域の人口の1割を超えるような死者を出した感染症は全く珍しくない。人類は有史以来、何度も疫病に襲われてきたのであり、グローバル化や資本主義を止めてもパンデミックがなくなるはずはない。
むしろ、グローバリゼーションと資本主義の時代が始まった19世紀以降、パンデミックによる死亡率は顕著に低下している。これは部分的には医学の進歩や公衆衛生対策が理由であることはもちろんだが、経済成長をもたらした資本主義の恩恵も大きい。現代の資本主義経済では、所得水準の上昇により栄養状態が改善したことで人々の感染症への抵抗力が増しており、イノベーティブな医薬品産業の活発な競争が次々と感染症治療薬やワクチンを開発しているため、感染症の被害は最小限に抑えられる傾向にあるのである。
例えば、1980年代に猛威を振るったエイズは急速に新薬の開発や感染対策の取り組みが進み、今や不治の病ではなくなりつつあるのは周知の事実である。今日、最も深刻な疫病が蔓延している地域はグローバル化にも資本主義にも背を向けた貧しい独裁国家である。古代や中世の現代よりも遥かに貧しい国々が何度も壊滅的な感染症に襲われてきたことを思えば、自然と調和し、貧しく暮らす脱成長社会ならばパンデミックには襲われないだろうなどと考えるのが、どれほど非現実的かは明白である。