男性不妊症を引き起こすさまざまな原因
【小堀】この点については、「厚生労働省子ども・子育て支援推進調査研究事業」(2015年度)の「我が国における男性不妊に対する検査・治療に関する調査研究」を基に説明したいと思います。グラフ(図表1)を見てください。日本全国の生殖医療専門医を対象に行ったアンケート調査の結果です。
グラフにある「造精機能障害」というのは、おっしゃるような無精子症、あるいは乏精子症という、精液の中に精子がまったくなかったり極端に数が少なかったりする疾患です。
また、「閉塞性精路障害」は、名前の通り精子の通り道が塞がれてしまっている疾患です。精子は生産されているのに、外に出られない。これには、生まれつきパイプカットのような状態になっている場合、クラミジアなどの感染による性感染症が原因で管が詰まってしまう場合などがあります。
一方、「性機能障害」とは何かというと、1つは精子などに問題はないけれど、勃起が不完全で膣への挿入がうまくいかないED。そしてもう1つが、勃起はして挿入もできるのに、肝心の射精に問題を抱える射精障害です。
【西野】ほとんどの人が知っているEDに対して、「射精障害って何?」という人は多いのではないでしょうか。
【小堀】おっしゃる通りなのですが、疾患を訴える人は、確実に増えています。そして私自身、男性不妊の中でも、射精障害に重点を置いて治療や情報発信を行っているんですよ。
「精子は毎日生産されているからいつも新鮮」は本当か
【小堀】さて、図表1を見ると、男性不妊で1年間に診察した患者数自体が、およそ20年前に行われた同様の調査時に比べて、大幅に増えているのが分かります。原因としては、不妊カップルや婦人科医などの間で、男性不妊症が広く認識されるようになったことや、晩婚化で不妊自体が増えていることなどが考えられます。
【西野】疾患別には、やはり無精子症などの造精機能障害が圧倒的に多くて、8割近くを占めるという比率は変わっていないようです。
【小堀】男性の場合は、やはり精巣(睾丸)に問題を抱えている場合が多いということです。ちなみにこの造精機能障害は、精索静脈瘤手術、生活習慣の改善、抗酸化療法、ホルモン療法などで改善される可能性があります。
閉塞性精路障害も、手術で精子の通過路を開通させるといった治療が試みられます。ともに、人工授精、体外受精といった方法を選べる場合もあります。もちろん、有効かどうかは、それぞれの患者さんの症状によるのですが。
【西野】治療技術も、昔に比べれば向上して、選択肢も増えたのでしょうね。
【小堀】あえて言っておくと、精子の数や運動率は、病気や機能障害がなくても10代後半ぐらいをピークに、徐々に低下していきます。
よく、卵子は年齢に従って“古く”なるので、高齢出産は流産などのリスクが高まる。一方、精子は毎日生産されているから、いつも新鮮——などと言われますが、それは大いなる誤解なんですよ。
精子だって、加齢に伴ってDNAの損傷が進行し、受精率も落ちていきます。やはり男性も高齢のほうが流産の率が高い、という報告もあるのです。
【西野】精子も老化は避けられない。