年の差婚をした夫婦の子どもの性別に偏りがでるワケ

【小堀】ですから、例えば不妊治療を始めるのならば、なるべく精子が「若い」うちがベター、ということになります。

精子については、こんな事実もあります。時々、中高年男性が何十歳も若い女性と一緒になる“年の差婚”が話題になりますよね。こういうケースでは、子づくりをすると、女の子の生まれる確率が高くなるのです。

【西野】え、なぜですか?

【小堀】女性の性染色体はXX、男性はXYということは、ご存じだと思います。受精前の精子は、そのXかYかのどちらかを持っています。それに対して、卵子はすべてX。卵子と受精したのがXの精子ならXX、YならXYというふうにして、子どもの生物学的な性別が決まるわけです。

これはアメリカの学会誌に載った研究報告なのですが、5000人を超える男性の精子を調べてみたら、55歳を超えるとY染色体の比率が減少していることが分かりました。相対的にXが多くなるため、生まれる子どもは、よりXXになりやすい。

【西野】精子自体も、「女性」のほうが長生きだったということですか。それにしても、毎日体内で造られている精子だけれど、とてもデリケートな存在であることが分かりました。

勃起と射精のメカニズム

【小堀】さきほどのグラフに戻ると、造精機能障害が高い比率をキープしている一方で注目されるのが、性機能障害の増加です。2014年度の全体に占める割合は、13.5%に上りました。この場合の性機能障害とは、平たく言えば「男性の機能に問題が生じたために、セックスがうまくできない」ことです。具体的には、EDと射精障害がこれに当たることは、すでに説明しました。

ただし、同じ「機能障害」に括られているこの2つは、似て非なるものです。ある意味、両者は正反対。相反する病態とも言えるんですよ。

【西野】正反対、ですか? どういうことでしょう?

【小堀】勃起と射精のメカニズムをごく簡単に説明します。いろいろ専門用語が出てきますけど、暗記の必要はありませんよ(笑)。

まず勃起について。脳の視床下部という部分が、視覚や聴覚などにより性的興奮を感じると、脳はその興奮を指令に変えて、脊髄を通して腰のあたりにある「勃起中枢」という神経に伝えます。指令を受け取った勃起中枢の働きにより、ペニスの海綿体というスポンジ状の組織に血液が流れ込み、その「血圧」によって勃起状態になるのです。

では、射精はどうなっているのか? こちらも、興奮を感じた脳の指令は脊髄を下り、「射精中枢」という神経に届きます。すると、前立腺、精囊といった関連部位に収縮が起こって、精液が精路の中をどんどん押し出されていきます。そして、最後にはペニスの先から勢いよく排出される。これが大まかな仕組みなのです。

【西野】それぞれ、別の神経によってコントロールされているわけですね。

【小堀】そうです。当然と言えば当然なのですが、性欲を起こしてセックスを行い、快感とともに目的を達するというのは、男女ともすべてが脳に支配されたふるまいです。

男性の勃起と射精に関して言えば、脳という司令塔からの指示が神経に的確に伝わり、さらにペニスをはじめとする関係器官がそれに基づいて正常に機能して、初めて完了できるプロジェクト、と言えばいいでしょうか。セックスやオナニーのたびに、男の体内では、けっこう複雑な回路が働いていたわけです。

さて、そこでさきほどの「勃起と射精は相反する」というお話です。人間の自律神経には、交感神経と副交感神経があるということも、お聞きになったことがあるはずです。