至るところに「仲間由紀恵」が現れる

外務省のある若いキャリア外交官(将来の大使候補)が、中国人の経営するバーに行った時のこと。

バーのオーナーに好きな女性のタイプを聞かれた彼は、即座に仲間由紀恵と答えた。

すると後日、「仲間由紀恵」が至るところに現れた。

自宅近くのコンビニ内で肩が触れ、外国語なまりで「ごめんなさい」と謝ってきた「仲間由紀恵」、行きつけのバーや居酒屋でたまたま隣に座った「仲間由紀恵」、帰宅時に外務省から出たところで出くわした「仲間由紀恵」、電車の中で目が合った「仲間由紀恵」……。

みな同一人物だった。

怖くなった彼は警察にかけこもうとしたのだが、正式に相談するのはキャリア外交官のプライドが許さない。

そこで、かねてから面識のある私に、「裏口」からコンタクトをとってきた。

調査したところ、この「仲間由紀恵」は中国人留学生であることが判明した。

バーの中国人オーナーのもう一つの顔はスパイと目されていて、外交官の話を聞くやただちに日本語ができる仲間由紀恵似の女性を見つけてきたのである。

こうした工作を日常的に行うには、相当な規模の予算や人員が必要になる。

写真=iStock.com/CandyRetriever
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パーティーで近寄ってくる美しい女性にご用心

スパイ機関というのは、標的を決めたらそこに予算と人員を惜しみなくつぎ込み、あらゆる策を講じる存在だということを覚えておいたほうがいい。

ハニートラップが盛んな某国大使館主催のパーティーでは、必ずといっていいほど美しい女性がたくさんいる。

公安の中でも外事課に勤務していると、こういう場に顔を出すことがある。

男性の同行者には、あらかじめ「美人がたくさん寄ってくると思うけど、気をつけてくださいね」と釘をさしておく。

にもかかわらず、アルコールが入った状態で、美しい女性が近づいてくると、たちまち腰砕けになってしまう。

後日、その美人から同行者に連絡がくるのだが、誘いに乗るのは絶対危険。

鼻の下を伸ばしている彼に対して、「わかっているとは思いますが、会うのは危険ですよ。ましてや、のこのこホテルまで行かないように」と強く念を押す。

こうしたことを何度も続けてくると、仕事以外のパーティーやレセプションなどの場で女性と知り合っても、まずその場の挨拶で終わってしまう。

公安の悲しい性で、身構えてしまうからだ。女性が身構えるのは普通だけど、男の側が過剰に警戒すると、相手の女性に引かれてしまう。

なので、最初からこういう場で、女性と仲良くなる可能性は捨てて、自然に振る舞うようにしている。