小6や中学生で避妊を教える国も

【村瀬】避妊についても、コンドームの付け方などは具体的には教えません。避妊をすることは人権問題で、妊娠に対して女性が自己決定権を持つことにもつながりますから、とても大事なことです。

太田啓子さん(撮影=プレジデントウーマンオンライン編集部)

海外では、オランダや中国では小学校6年生くらい、イギリスや韓国では中学校で避妊について教えますが、日本では高校の保健体育で触れる程度です。

【太田】やはり性に関するリテラシーはしっかりと持たせたいし、その上で「自分の体のことは自分で選ぶ」という自己決定権を持つことができるような性教育が必要だと思います。

【村瀬】そうですね。それと、避妊の前に、まず「『愛している=セックス』ではない」ということを、若いうちから教えてあげたいですね。視線や言葉を交わしたり、優しく触れ合うなどでお互いがわかり合ったり、深い愛情を感じることはたくさんあります。そしてお互いにどうしてもセックスがしたいと思ったら、正しい知識を持って避妊を、と伝えることです。

「不幸にならないための性教育」から「幸せになるための性教育」へ

【村瀬】現在の性教育では、病気や中絶については教えます。子どもたちが「不幸にならないための性の知識」を教えることが主流です。大学生などに、これまでにどんな性教育を受けてきたかを尋ねると、中絶や性感染症など「嫌な話ばかり聞かされた」と言います。

【太田】親の方も、どうしても心配が先に立ってしまいますしね。もちろん、中絶や性感染症も大事な知識ですが、本当は、「幸せに生きるための性教育」もしてほしい。

国際的には1990年代から「包括的性教育」という言葉が使われています。セックスや出産に限定せず、他者との関わりや人権に関わる問題として、全ての子どもを対象として行われるべきとされる性教育の理念です。2009年にはユネスコが「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」を発表しています。

日本でも性教育を実践する先生や学校はあるのですが、性教育の意義を理解できない人たちからバッシングを受けることもあって、なかなか広がりません。

東京都では、日野市の都立七生養護学校(現・特別支援学校)の性教育に対して議員やマスコミが「ポルノまがい」と攻撃した事件や、足立区の中学校で性交や避妊などについて具体的に教えていたことを、ある議員が「不適切」と問題視した件などがありました。七尾養護学校の件は最高裁まで争われ、「議員の介入は不当である」と判決が出ていますし、足立区では、「現場の先生は萎縮せずにやってほしい」と東京都教育委員会も見解を出していますが、その経緯などはしっかり認識されていないようです。学校で性教育がなかなか進まないのは、こうした背景もあるのではないでしょうか。