実は「昔の感覚のまま発言してしまい、問題になる人」はドイツにもいます。

※画像はイメージです(画像=iStock.com/Rudzhan Nagiev)

ドイツでは2016年に旅行代理店Thomas Cookの管理職だった男性従業員が、職場の社員食堂で働くカメルーン出身の女性に数回に渡り「黒ん坊キッスがほしい」などと声をかけ、これが人種差別とセクハラに該当するとして同社から解雇通告受けたことが報じられました

男性従業員がそれまでの勤続年数十年の間にそれ以外に特に問題を起こしていなかったことから、フランクフルトの労働裁判所は解雇を無効としたものの、会社側はマスコミに対して「カメルーン出身の女性に対する同氏の肌の色をからかうような言動は一度限りのものではなく、数回にわたり行われた挑発的なものだった」と発表しました。

この例から見てとれるのは、男性がいわゆる昔ながらの「男性優位」の姿勢を崩さず、相手の女性が嫌がっていても「おかまいなし」だったことです。

ドイツの鬼ごっこの名前は「黒い男が怖い人!」

ドイツ人の多くが「黒人に対する人種差別」に鈍感なのは、昔ながらの子供たちの遊びであった鬼ごっこの名前から見ても明らかです。

ドイツではかつてWer hat Angst vorm schwarzen Mann?(和訳:「黒い男が怖い人!」)という名の「鬼ごっこ」がはやっていました。

この遊びでは鬼となった人が、ほかの子供全員に対して「黒い男が怖い人は?」と大きな声で呼びかけ、他の子供たちが全員「黒い男なんか、怖くないよ!」と叫び返します。鬼が「それでも黒い男が来たら?」と聞き返すと、全員がまた同時に「そうしたら皆で逃げる!」と叫び、ワーッと逃げていく遊びです。

筆者がこの鬼ごっこをしていた子供の頃を思い出してみると、自分の中の「黒い男」のイメージは黒人ではなく、「目以外の顔や頭、体が黒いストッキングのようなものですっぽり覆われているような男の人」でした。「黒い男」の正体はドイツで諸説あるのです。「黒い男」の正体が「煙突掃除夫」だったという説もあれば、「死刑執行人」だったいう説、また黒死病(ペスト)を患っていた人という説も――。

しかし「黒い男」が黒人という説も否定はされてはいないため、現在ではこのフレーズを耳にすることはありません。人種差別につながるとして、鬼ごっこの名前もWer hat Angst vorm weissen Hai?(和訳:「白いサメが怖い人!」)に変更されました。

嫌な思いをしてきた当事者の声を聞くべきだ

白人のドイツ人の中からは「この遊びの黒い男の正体が黒人だとは限らないのだから、イチイチ気にするのは細か過ぎる」という意見もよく聞くのです。

先日筆者と年齢の近い黒人のドイツ人女性に話を聞く機会があり、この鬼ごっこについて聞いてみました。彼女は「私は子供の頃、この遊びが本当に嫌だった。仮に黒い男の正体が黒人ではなかったとしても、『黒』が悪い文脈でしか出てこなかったから」と語りました。

「当事者であるか否か」によって、とらえ方が全く違うという良い例だと思います。